退院日の朝、陣痛室で一番長くそばにいてくれた助産師さんが部屋に来てくれて、最後に話をしてくれた。
きっと色んな人から、私がメソメソしてることを聞きつけて足を運んでくれたんだと思う。

私が「あの時『切ってください』と自分が言ったから、自分がもう頑張らないことを決めてしまった気がしてしまう。私に選択させるんじゃなく、先生に『もう切りますから』と決めて欲しかったような気持ちもある。」と言うと、

「あの時先生は、「今なら赤ちゃんが元気なうちに取り出せる」と言ったんだよ。
もう2時間陣痛に耐えて待つことも出来るけど、その時に赤ちゃんが元気な保障はない、という意味で『今なら元気に』と。
中には『いやだ!絶対下から産みたいから2時間耐える!』という妊婦さんもいる。
でも、吸引分娩で血腫が出来る程度ならまだ良くて、もしかしたらあのまま赤ちゃんは新生児室に入院していたかもしれないし、お母さんは赤ちゃんと一緒に退院出来なかったかもしれない。
それは紙一重の差で、誰にもわからない。
そんな時は、母体はある程度取り戻せるけど、赤ちゃんは取り返しがつかない。自分で何も言えない。だからまず、赤ちゃんのことを考える。

この先何十年も生きていく赤ちゃんの、最初の大事な判断になる。だから、赤ちゃんを優先する判断を出来て良かったと、私は思ってるよ。

あそこでお母さんは、『辛いからもう切ってください』と言ったんじゃなく、『赤ちゃんのためなら、もう切っていいよね?』と言ったんだよ。
私は覚えてる。

先生も、夜だから促進剤も使えない、と言った。(夜に赤ちゃんの心拍が下がることが多いため)
「どうしますか」と聞いたのは、選択肢を提示というより、可能性の話をしたのね。
もしあの時先生が一方的に「切りますから」と言ってたとしたら、それはそれであとから心に残って考えてしまったかもしれない。

最後は赤ちゃんのことを考えて、お母さんとお父さんが「それなら待たないでもう出してあげよう」と決めてあげたの。それは素晴らしいこと。

あなたの経過を見て、もうやれることは全部やったと、私も思ったよ。あの判断は絶対間違ってない。

だって最後、麻酔までとって2時間頑張ったんだよ。いきみが来なかったし、あの下がり方ではまだいきめる状態じゃなかった。赤ちゃん降りて来なかったから。それは誰にもどうにも出来ないこと。神さまが決めたみたいなものだよ。

中には、麻酔なんか絶対取らないで!という人もいるんだよ。でもあなたは、最後、麻酔も取って頑張ったんだから。 

赤ちゃんも頑張ったし、苦しかったと思う。それを、お母さんとお父さんの判断で無事に出してあげられたことに自信を持って。

帝王切開って、したい人が誰でも出来たり、すぐにしてもらえるわけじゃない。
陣痛が辛くて1センチの開きで帝王切開して!と言われても、出来ないの。

あなたの場合はあの時点で帝王切開が必要だったからしたんだよ。

陣痛も子宮口全開まで耐えて、最後は痛み止めも取って、脂汗かいて、高熱も出て。

もし自分の妹があの状態だったら、私は絶対に帝王切開にさせるよ。先生も自分の奥さんが同じ状態だったら、帝王切開にさせると思う。

これから赤ちゃんを一緒に何十年も見ていく身内だったとしたら、あの時の一瞬の判断で赤ちゃんを危険な目には合わせられない。
赤ちゃんとお母さんが無事でいてくれるのが一番。そのためにやれることは全部やった、そう思うから。

お産って、赤ちゃんとお母さんが無事でいられることがなによりで、母乳が出ればさらにラッキー。
あなたの赤ちゃん、3300gであんなに元気で産まれてきて、母乳もたくさん出て、一緒に退院出来ることがとても幸せなことなんだよ。

だから自信を持ってね。
自信を持って子育てしてね。

あの日関わった助産師さんがみんな気にしてて、ああ、頑張ったんだねって話してたんだよ。
次の日からもう起き上がれて、すごいね!無理していなければいいね、って心配もしてたの。

真面目だからね、息抜きしながら子育てしてね。
100のうち、50頑張ればいいんだからね。
これから楽しいことだらけだよ。

本当に本当に、お疲れ様でした。
二人目も待ってるからネ!」

退院日まで引きずっていたモヤモヤした気持ちが、一気に晴れていくような気分だった。

記憶が曖昧な中、あの時ずっとそばにいてくれた助産師さんが色々はっきり覚えていてくれて、消化出来ていなかったことに全部答えてくれたような気持ちだった。

赤ちゃんのために夫婦で良い判断をしてあげることが出来た。
素直にそう受け止められた。

それからは、退院しても、帝王切開になったことではもうメソメソ泣かなかった。

素敵な助産師さんに巡り合えて良かったな。