2025年にはいって、2本目の劇場鑑賞作品として選んだの’は、ティモシー・シャラメ主演のボブ・ディランを描く「名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN」でした。
名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN(2024)
1960年代初頭、後世に大きな影響を与えたニューヨークの音楽シーンを舞台に、19歳のミネソタ出身の無名ミュージシャンであったボブ・ディラン(ティモシー・シャラメ)が、フォーク・シンガーとしてコンサートホールやチャートを賑わせ、彼の歌と神秘性が世界的なセンセーションを巻き起こす中、1965年のニューポート・フォーク・フェスティバルでの画期的なエレクトリック・ロックンロール・パフォーマンスに至るまでの軌跡を描いています。(引用元)
感想
私は、フォークソングが反戦や反体制のメッセージとして人々の心をつかんでいた時代を直接経験していませんが、当時を知る人からボブ・ディランの話をよく聞いていました。
おかげで、彼の有名な曲はほとんど知っており、オーストラリアのアデレードで開催されたボブ・ディランのコンサートに行ったこともあります。
しかし、そのコンサートでは、オープニングのアーティストのパフォーマンスで盛り上がったものの、ディランが登場すると、エレクトリックバンド演奏がただ延々と続き、観客とのコミュニケーションもまるでなく終わってしまったので、あれれ、と拍子抜けしまったのを覚えています。
今回の鑑賞では、ティモシー・シャラメがどのようなディラン像を提示してくれるのか、そして私自身もディランをより深く理解できるようになるのだろうかと、期待と不安が入り混じった気持ちでのぞみました。
何といってもティモシーが素晴らしかった。
演技はもちろん、実際に歌い、ギターとハーモニカを奏でながら、ディランに完璧に憑依しつつ、ティモシーらしい魅力を存分にみせてくれました。
本作は、グリニッジビレッジ時代の19歳のディランから、時代の寵児となり、エレクトリックへ移行する過程を見事に描き出しています。さらに、ピート・シーガー、ジョーン・バエズ、ジョニー・キャッシュ、ウディ・ガスリーといった、名前は知っていてもあまり詳しくは知らなかったミュージシャンたちとの関係も、ひじょうに興味をそそられました。
特に、ピート・シーガー役を演じるエドワード・ノートンの歌と演奏には驚かされました。彼がディランをこのように支えていたとは全く知りませんでしたし、ティモシーとならんで、見事な演技でした。
また、ピート・シーガーの妻役は、日本の女優さんが演じています。スクリーン上で登場シーンはかなり多いのに、セリフはほとんどなく、ただ微笑んだり、困った表情をみせるばかりという点は、アカデミー賞候補作品に求められる多様な人種(アジア系やラテン系、黒人など)の起用を意識したあからさまな選択のように感じられ、同じ日本人として少々気になりました。
また、ディランが皆の期待するフォークの名曲を披露するのではなく、エレクトリックな音楽を演奏したために、ブーイングをうけたり、大混乱に陥る様子は、私自身が体験したことなので(ブーイングこそなかったものの、後になって皆が失望していたのを覚えています)、非常によく理解できました。
しかし、今回の映画を通じて、ディランの心情に少し触れることができたように思います。それは大きな収穫です!
さらに、エル・ファニングが演じるシルヴィ・ルッソの切ない恋愛模様やジョーン・バエズとの関係も非常に興味深く描かれていました。
この映画は、大人の観客、そしてディランを知っている人、そしてディランの時代をリアルに経験したい人にも、ぜひおすすめしたい作品です。
評価は星四つ半、でも、ティモシー・シャラメにはアカデミー賞をあげたい気持ちです。「デューン 砂の惑星」よりも「ウォンカ」よりも、これが一番好き!(訂正、やっぱり五つ星!)
オーストラリアでは1月23日に公開され、私は2月9日(日)の夜、一番遅い回で鑑賞しました。
コロナ禍以降、映画館が苦戦しているのはオーストラリアも同じで、日曜の夜ながら、収容人約230名の大スクリーンの部屋には、観客は私たちだけでした。
従業員の姿もみあたらず、一般席ではなく快適なリクライニングシートで鑑賞できたのは、まさに素晴らしい映画体験となりました。
どうぞ皆様もティモシーの素晴らしい演技とディランの世界をお楽しみください。