きりたんぽ事件
二年前の秋から冬にかけて、リサイタルツアーで、東北地方を回りました。
そのころ、同じレコード会社のきくち寛さんもゲストとして、一緒に何ヵ所か回ったのです。
きくちさんは、歌でもじっくりと歌い聞かせるというタイプで、普段でも口数の少ない方なのです。でも時に、だれもが口にしないようなことを“ポロッ”としゃべったりするのです。あの時もそうでした。
秋田の市民文化会館ホールでコンサートを行なった時のこと。
コンサートも半分ほど進み、ゲストのきくちさんと、秋田についてしゃべっていました。
秋田の名物といえばきりたんぽ。もち米をついて、お団子のようにした食べ物なのです。
このききたんぽを一度食べてみたいという話をしていた時、きくちさんは“きりたんぽ”の後に、な、なんと“ん”をつけてしまったのです。それも、公衆の面前で。初めて口にしたきりたんぽに先入観が入り、おいしく食べられなかったのは、私だけだったのでしょうか。

