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もう一つの重要な側面

 

ウクライナ侵攻から明後日2月24日で1年が経とうとしています。

 

本日読んだニュースに深く感じるところがあり、シェアさせて頂きたいと思います。

 

これも、戦争に関わる重要な側面だと改めて痛感します。

 

 

 

- 東洋経済ONLINE -

ウクライナ侵攻、知られざる「文化財」破壊の深刻この1年で240カ所が被害、保護は時間との戦い

安部 雅延 : 国際ジャーナリスト(フランス在住)       2023/02/22 9:00
 

ウクライナのオデーサにある、映画史上最も有名な階段ともいわれる「ポチョムキンの階段」(写真:Traveling Freeman/PIXTA)

 

 

文化への関心の高いフランスのメディアをはじめ、欧州メディアはロシアがウクライナに侵攻して1年が経つ中、ウクライナ国内ですでに美術館や博物館、歴史的建造物が破壊され、ウクライナが保有する芸術的財産の保護が時間との戦いに入っていると伝えている。

パリに本部を置くユネスコ(国連教育科学文化機関)の公式発表では2022年2月24日以降、今年2月15日までのウクライナ危機により、105の宗教施設、18の美術館、86の歴史的または芸術的評価のある建物、19のモニュメント、12の図書館など、計240件の被害が確認されたとしている。

オデーサの歴史地区を「危機遺産」に指定

ユネスコはパートナー組織とともに武力紛争の際の文化財の保護に関する1954年のハーグ条約の規定に沿って、衛星画像分析を含む独自のデータ評価メカニズムを使用し、被害状況の正確な把握を客観的に行っている。また、信頼できる複数のソースから集められた被害状況も加え、調査の精度を高めている。

1月25日には、ウクライナの港湾都市オデーサの歴史地区を「危機にさらされている世界遺産(危機遺産)」リストに登録した。オデーサ中心部には映画『戦艦ポチョムキン』に登場した、映画史上最も有名な階段ともいわれる「ポチョムキンの階段」(現プリモルスキーの階段)が含まれる。

危機遺産リストへの登録をめぐっては、パリで開催された世界遺産委員会の臨時会合で21カ国中6カ国が賛成票を投じ、14カ国が棄権、ロシアは反対票を投じた。

 
 
 
 

ユネスコが緊急登録した背景には、戦争による破壊の脅威にさらされている「黒海の真珠」と呼ばれたオデーサの遺産を保護する目的があった。ロシアがオデーサを破壊すれば、世界遺産を破壊したことになるので、ロシアの攻撃を思いとどまらせることに少しでも役に立てばという姿勢の表れでもある。

ユネスコのスポークスパーソンによると「オデーサの町中心部が世界遺産に登録されたことにより、追加の法的保護が提供される」。これは「すべての加盟国がこの場所を保護するために可能な限りの支援を行うことを約束することを意味する。加盟国には国際社会に対して法的義務がある」と説明している。

ロシアは「世界遺産」の破壊を避けている?

ユネスコは、「国連の衛生写真分析機関と協力して監視・分析しており、2月中旬時点で世界遺産に登録されている8つのウクライナの遺跡(オデーサの今回登録された町中心部を除く)のいずれも被害を受けていないことを確認した」としている。ロシアのウラジミール・プーチン大統領の心理は読めないが、世界遺産への破壊行為を避けている可能性もある。

文化に敏感なロシアにとって、世界遺産破壊は2001年3月、タリバンが世界文化遺産のアフガニスタンのバーミヤンの大仏を破壊したり、2015年にはイラク北部で歴史遺産に登録された古代都市の遺跡がイスラム国(IS)によって破壊されたりしたことで、世界がイスラム過激派に厳しい目が向いたことも念頭にあるかもしれない。

フランスメディアの報道によれば、ユネスコはキーウにウクライナの文化遺産を保護するためにイタリア人の専門家、キアラ・デッツィ・バルデスキ氏を代表として送り込んでいるという。彼女は「われわれは生きるために文化を必要としている」「われわれは莫大な遺産を失う深刻な危険に直面している。今こそ介入するときだ」とフランス・テレビジョンの取材に答えている。

彼女は、空爆によって屋根ガラスが破壊されたオデーサ美術館の修復を含む全国の文化施設に対して、ユネスコの資金を使った応急修復作業の監督と調査も行っている。ただ、これらの修復は作品を守るための一時的措置にすぎず、大規模な空爆を受けた場合は守りきれないことも認めている。バルデスキ氏はウクライナ各地では毎日、空爆の危険を知らせるサイレンが鳴り響いていると証言している。

 

 

 

 

実際、この1年間で燃やされ、略奪され、破壊された美術館や博物館は多く「1000以上の文化施設が被害を受けた」と、オレクサンドル・トカチェンコ文化情報相は昨年12月末にフランスのニュース専門テレビ、BFMTVに語った。

首都キーウ北西に位置するイヴァンキフ市の郷土史博物館はロシア軍によって破壊された博物館の1つだが、被害の中で、ウクライナの民俗芸術家マリア・プリマチェンコによる25枚の絵画が破壊され、灰となった。彼女はウクライナ素朴派の代表格の画家で、巨匠ピカソは当時、彼女を称賛していた。

自らも署名したハーグ条約に違反しているロシア

アメリカの国際博物館会議委員会によれば、ロシア軍は意図的に美術館や記念碑(世界遺産以外)を爆撃し、焼き払っていると指摘している。目的は重要な歴史遺産を破壊することで、ウクライナ人の誇りとアイデンティティーを人々から奪い取り、降伏を迫るためだ。マリア・プリマチェンコの作品が焼失したイヴァンキフ博物館のあるヴィーシュホロド歴史文化保護区の所長は「取り返しのつかない損失」と失望をあらわにしている。

フランス人文化財保護活動家は「ウクライナに残る歴史的文化遺産の保護は、ロシアが勝手に歴史を捏造することを阻止する意味もある」と言う。欧州の指導者がロシアの今回の行為は「歴史を書き換えようとする試み」と指摘している意味は、まさにその国が構築した誇るべき文脈を書き換えようとする行為ということだ。

ロシアは自国も署名した武力紛争時に歴史文化遺産の破壊を禁じた1954年のハーグ条約に自ら違反している。歴史的に独裁者は歴史を書き換えるのに余念がない。

 

 

 

 

ユネスコは戦争によって破壊された遺産を修復する支援のために2017年に設立された紛争地域における遺産の保護のための国際同盟(ALIPH)と連携している。

ロシアによるウクライナ侵攻の数日後、ALIPHが博物館や図書館などの文化施設に対して金属製の箱と気泡緩衝材を送り、作品を梱包した結果、キーウへの昨年10月のロシアの空爆でも約2万5000点に及ぶ作品が生き残ったことが報告された。ただ、昨年12月以降の冬の寒さと暖房なしの低温状態が作品を危険にさらしていると指摘されている。寒冷地の武力紛争は経験が浅く、文化財保護に新たな課題を突き付けている。

国外退避も進めている

寒さが作品保存を不可能にする中、国外への退避が行われている。11月中旬にはキーウのウクライナ国立美術館から約70点の絵画が、スペイン・マドリッドのティッセン・ボルネミッサ美術館に移され、芸術家ウラジミール・バラノフ・ロッシネの作品「アダムとイブ」が展示中だ。当時、キーウ近郊は空爆され、作品の移動にはさまざまな困難があったことをスペイン側のキュレーターは証言している。そのほか、ドイツのケルンに退避した例もある。

フランスの専門家は、この種の戦時下の芸術作品の移動は非常にリスクが高く、つねに作品が略奪の危険にさらされていると言う。すでにこの1年、ウクライナ国内の文化施設から作品が略奪された例は少なくない。ロシアが手中に収めた南東部マリオポリや東部ヘルソン地方民芸博物館からロシア軍が10万点以上の作品や文化財を持ち出したとされている。

ユネスコの目標は、紛争の終結後に略奪された美術品がウクライナの機関に返還されるようにすることにある。そのためには戦時中の文化財の保護に関するハーグ条約で規定されている措置である目録の作成が急務とされている。

 

 

 

*記事引用元:東洋経済ONLINE