新年恒例の国立劇場菊五郎劇団の歌舞伎、国立劇場が閉場したため、今年は新国立劇場中劇場での開催です。
大劇場のオペラパレスへは年に2,3回ほど訪れていますが、中劇場は初めて。
間口が狭く奥行きが浅い舞台、扇形に広がる客席、仮設花道は短く揚幕からの出入りが2階からでも見えます。
が、扇形なので、2階の両サイドでは、舞台は見切れてしまうのかな…!??
それを見越して、2列目ですがセンターブロックの席にしました。


『梶原平三誉石切』
菊之助さんの梶原平三景時、初役ということですが、すっきりとした端正な演技。
颯爽として凛々しく、懐が深く情が感じられます。
岳父・二世吉右衛門さんの当たり芸をよく勉強している様子、ふとした表情に吉右衛門さんを感じることがあります。(顔は似ていませんが…)
生締の姿が美しく、よく似合い、今後の持ち役になることでしょう。
吉右衛門さんが、初代から受け継いだ刀、そして二世吉右衛門さんが生前、次に梶原平三を演じる時に演目に加えて播磨屋の演目、芸域が広がり、更なる活躍を期待します。

彦三郎さんの大場三郎景親は、大名としての大きさと格、太々しさがあります。
萬太郎くんの俣野五郎景久は、若々しくキッパリして、ヤンチャ感たっぷり。

橘三郎さんの青貝師六郎太夫、娘への情、気骨と品格があります。
梅枝さんの梢は、すっきりと可憐で健気な若妻、細やかな父への気遣いと情があります。
片岡亀蔵さんの剣菱呑助は、比較的抑えめですが、このお方ならではの可笑しみがあります。

竹本義太夫は葵太夫さん。


『芦屋道満大内鑑-葛の葉』
陰陽師・安倍晴明の母が狐だったという伝説をもとに、安倍保名と葛の葉の夫婦愛、そして正体を隠してきた母親(実は白狐の化身であった)葛の葉と幼な児との切ない別れが描かれています。
原作は1734(享保19)年に人形浄瑠璃として初演。

梅枝さんの葛の葉は、初役とのこと、人外感と人間らしい情愛の深さ濃さ細やかさがあります。
古風な佇まいに哀愁を漂わせ、妻として母としての愛情、儚さと優しさ、そして芯の強さが感じられ、美しく充実しています。
狐の化身である葛の葉は、去ることを決意、障子に別れの一首を書き残します。

 「恋しくば尋ねきてみよ和泉なる信田の森のうらみ葛の葉」
右手で「恋」と書き、「はくし」と逆順に書く。「たずね」と裏文字で書き、童子が起きたのであやしながら「来てみよいずみなる」と書く。
童子がすがりつくために筆を左手に持ち「信太(田)の森の」と裏文字で書き、右の手で「うらみ」と書き、再び童子が泣くので抱きしめ「葛の葉」と筆を口で咥えて書く。
大変な曲書きですが、きれいな筆跡で見事です。

信田の森への道行、秋草が咲き風情がある中で、狐の本性をみせ、追手の奴相手にぶっ返って戦います。
時間的な制約もあるのでしょうが、追手の出現に、唐突感は否めません。(^^;;(^^;;
スッポンがあれば、より雰囲気が出たでしょうが、仕方ありませんね。
回り舞台を巧みに使用しています。

本物の葛の葉姫は、しっとりとした赤姫。

時蔵さんの安倍保名は、すっきりとして柔らかく品が良い。
権十郎さんと萬次郎さんの庄司夫婦は、丁寧で手堅い演技です。
童子は小川晴明くん、「かかさまぁかかさまぁ」…可愛らしいこと。

大好きな演目で、実演は3回目。(過去2回は亀治郎さん(2011年)と七之助さん(2016年))
梅枝さん、ますます魅力的な役者になられて、今後が更に楽しみです。


『勢獅子門出初台』
曽我兄弟の仇討を踏まえた芝居にちなむ「曽我祭り」の、常磐津による総踊り。
菊之助さん、彦三郎さん、萬太郎くん、吉太朗くんの鳶頭、時蔵さん、萬次郎さん梅枝さんの芸者。
菊之助さんと彦三郎さんのコンビが新鮮、曽我物語とボウフラ踊りを、粋に見せます。
粋で艶やかな黒着物の時蔵さん、萬次郎さんと梅枝さんはしっとりしています。
萬太郎くんと吉太朗くんの獅子舞は、キレと躍動感、そして愛嬌があります。

亀三郎くん、丑之助くん、眞秀くん、大晴くん、チビちゃん達の手古舞と若い鳶で、可愛らしく賑やかです。
チビちゃん達、平等な目で見ているつもりでも、丑之助くんを目で追っている…。
お稽古をしっかりやっているのでしょう、やはり上手いですね。

権十郎さんと片岡亀蔵さんは世話人。

最後に、大道具に乗って菊五郎さんが登場、腰が悪いとのことで動きは不自由そうですが、ハリのあるしっかりとした声です。
姿だけでもいなせで粋な佇まい、格好よいこと。
三本締めで華やかな幕切れです。
でぬぐい撒き、2階までは飛んできませんでした。(T_T)


今回、お隣だったおじ様(私よりも少し上かな…)、「葛の葉」での梅枝さんの早替わりなど、まだ歌舞伎には然程なれていないのか、しばしば「あっ」「おー」とか驚嘆の声を上げていました。
新鮮な驚きを間近にみて、微笑ましく感じるとともに、
観劇の回数重ねて、私自身そのような感覚が減ってきたことを実感。
なんだか少し寂しく感じました。


今年の道楽始めでした。