日時: 2024年4月20日(日) 15:00より
場所: 東京文化会館
指揮: セバスティアン・ヴァイグレ
演奏: 読売日本交響楽団
合唱: 新国立劇場合唱団

エレクトラ:エレーナ・パンクラトヴァ
クリソテミス:アリソン・オークス
クリテムネストラ:藤村実穂子
オレスト:ルネ・パーペ
エギスト:シュテファン・リューガマー
第1の侍女:中島郁子
第2の侍女:小泉詠子
第3の侍女:清水華澄
第4の侍女/裾持ちの侍女:竹多倫子
第5の侍女/側仕えの侍女:木下美穂子
侍女の頭:北原瑠美
オレストの養育者/年老いた従者:加藤宏隆
若い従者:糸賀修平
召使:新国立劇場合唱団
 前川依子、岩本麻里
 小酒部晶子、野田千恵子
 立川かずさ、村山舞


セバスティアン・ヴァイグレ指揮するオーケストラは、緻密で濃密・重厚、色彩鮮やかで雄弁です。
最弱音から最強音まで起伏に富み鮮烈、柔軟でドラマチック、緊張感に満ちたスケールの大きな演奏です。
エレクトラの不協和音と、クリソテミスの全音階的な抒情性の対比が、よく感じられます。
エレクトラとオレストの姉弟の再会、それまでエレクトラを支配していた暗い影が潜め、
人間的な"家族の情愛"を示す穏やかで甘美な音楽、陶酔感が高まる雄弁で優美な音楽は感動的。
そして、"エレクトラの歓喜の踊り"の怒涛のフィナーレ、圧倒されます。
背筋も凍るほどの凄絶な不協和音と官能的で陶酔感あふれる美麗な旋律、R.シュトラウスのオーケストレーションが素晴らしい。

ヴァイグレは颯爽とした指揮姿、躍動感のある激しい棒捌きです。

巨大編成のオーケストラは壮観、4階R側からなので楽器の持ち替え場面までは見えませんが…。
咆哮しつつも輝かしい金管楽器群、ティンパニ2台を始めとする数々の打楽器、厚みのある弦楽器、柔らかい木管楽器など、音圧の凄いこと。


演奏会形式ですが、女声陣の皆様は、表情豊かに身振り手振りで、演技をしています。

エレクトラ役のエレーナ・パンクラトヴァは、芯のある深く瑞々しい艶のある美声、強靭な声で圧巻の歌唱力・表現力です。
父アガメムノンが非業の死を遂げたことへの悲嘆、母と情夫への漲る激しい怒りと復讐心、絶叫、弟が死んだと知らされた絶望感、そして弟との再会の感動と陶酔、復讐を成し遂げた歓喜と狂喜…。
凄惨極まりない復讐劇ながら、巧みな心理描写で惹き込まれます。
エレクトラが歓喜と狂気の踊りに酔いしれる場面では、舞台の照明が明るく照らされます。
幕切れ、エレクトラは指揮台の手摺に身体を預け、上を向いて静止、エレクトラの死を示すように"アガメムノンの動機"が威圧的に鳴り暗転。

クリソテミス役のアリソン・オークスは、透明感ある清澄な美声、力強い見事な歌唱力・表現力です。

クリテムネストラ役の藤村実穂子さん、凛として深く潤いのある美声、敵役として不気味な表情ですが、気高く気品があり、円熟味のある歌唱です。
二人の外国人娘に対してやや声量不足のように感じますが、
悪夢と不眠に悩むやつれた王妃として、敢えて控えめにしているのでしょうか。

オレスト役のルネ・パーペは、深く渋くハリと潤いあるの低音美声、よく響き、貫禄と気品のある抜群の歌唱です。
女声中心に進んできたオペラの中で、圧倒的な風格と存在感があります。
他の歌手が全て暗譜なのに対して、一人譜面台を持っての登場。

エギスト役のシュテファン・リューガマーは、よく響く明瞭なテノール、敵役としての存在感、王としての威厳が感じられます。

6人の侍女たちは、表情豊かに充実した歌唱で、好演しています。
オレストの養育者・年老いた従者役の加藤宏隆さん、若い従者役の糸賀修平さん、ともに手堅い歌唱。

殺害されるクリテムネストラとエギストの断末魔の悲鳴、召使たちの騒乱は舞台裏から。


パンクラトヴァは、黒いドレスにブロンズ色のロング・ショールを羽織っています。
(1日目は黒のロング・ショールだったよう。)
オークスはオフホワイトのドレス、藤村さんはブルーのドレス。
この陰惨なオペラは、舞台演出があるものよりも、演奏会形式の方が視覚的にも聴覚的にも楽しめそうですね。


縦横無尽に活躍する充実したオーケストラと好調な歌手の皆様、非情にバランスが良い公演です。

昨春の東京交響楽団による公演に続いて、このオペラは二度目の生鑑賞。
取っ付き辛く複雑なこのオペラ、前回はまだ咀嚼しきれていない上に、ミューザの字幕が眼鏡をかけてもほとんど読めず、途中で集中力を欠くこともありました。

今回はあっという間の105分、集中力が途切れることなく食い入るように観て聴きました。
正直、R.シュトラウスとはいえ、好みの音楽(オペラ)ではないと思っていましたが、
ここまで釘付けになり、魅了され、高揚するとは…期待以上の公演でした。


 

 

 

 

 

 

 

(写真は公式Xより)

 

 

今年の東京春祭はこれで終了。
今年はオペラ4公演を鑑賞、全て高レベルで上質な出来栄え、素晴らしいものでした。
年々豪華になるこの音楽祭、嬉しい限りです。
が、昨今の世界情勢や日本経済(円安含め)を考えるいつまで続けられるのかという不安は常に抱いています。
どうか来年もまたその先も、この春の一大イベントが続き、続けられ、私自身も元気に参加できますように。