『猩々』
能の「猩々」をもとにした、愛嬌と品格漂う、華やかな松羽目物。
猩々とは古くから中国に伝わる水中に棲む霊獣、酒を好み、無邪気に舞い戯れる妖精です。
中国・揚子江のほとり、市場で酒を売れば富貴なるという夢のお告げを受け、若者は酒売りを始めます。
ある日、酒売りに勧められるままに大好きな酒を飲んだ猩々、酒の徳を謳いながら、水上で戯れ、上機嫌に舞って見せます。
やがて、猩々は酌めども尽きない酒の泉が湧く壷を酒売りに贈り、打ち寄せる波間に姿を消します。
松緑さんの猩々は、柔らかくしなやか、鷹揚としています。
二部の俵星玄蕃に続いて酒好きな役で、酒を飲み続ける松緑さん、酒が好きでたまらない表情、丸いお顔がとても可愛らしい。
勘九郎さんの猩々は、キビキビとして俊敏で鋭角的、足捌きが見事です。
ふわふわ浮遊感たっぷり、二人の巧者による舞踊は鮮やか、そして対照的、その踊り比べが楽しい。
種之助さんの酒売りは、きっちりとして折り目正しい。
今月の歌舞伎座で、最も歌舞伎らしい演目、短いながら見応えがあります。
松緑さんと勘九郎さんの共演(競演)機会が増えますように、お願いいたします。
『天守物語』
今年、生誕150年を迎えた泉鏡花の戯曲、姫路城(白鷺城)の天守に隠れ住む姫の伝説を題材に、美しい異形の世界の住人と、この世の人間とが織りなす夢幻の恋物語。
美の本質、真の純粋さを希求した幻想的な傑作、鏡花の言葉を聴かせることに重きを置いた舞台です。
七之助さんの富姫は、硬質感のあるクールで怜悧な個性がよく効き、凛として美しく気高い。
人間界を見下ろす異界の主としての威厳、そして気品と孤独を感じさせます。
より嫋やかで耽美的な印象の玉三郎さんの富姫とは違う味わい、それもまた好い。
長らく富姫を当たり役としてきた玉三郎さんの亀姫は、瑞々しい美しさ、若々しく可愛らしい、妹分に徹しています。
どこか妖しい酷薄さを感じさせ、流石です。
姉妹関係が鮮明になる、肩寄せ合い頬寄せ合う富姫と亀姫の二人の姿は、美しく魅力的なこと。
虎之介くんの図書之助は、すっきりとして涼やか、健闘しています。
吉弥さんの奥女中薄は、格があり味わい深く、存在感があります。
勘九郎さんの近江之丞桃六は、力強く威厳・貫禄があります。
「世は戦でも、胡蝶は舞う、撫子も桔梗も咲くぞ…馬鹿めが」
幕切れの言葉が心に響きます。
世界でも我が国でも、不穏極まりない今の時代、ニュースを見る度に心を抉られ削られるようなこの時代に、
僅かながら希望の光が差し込むようで、意味深く感じられます。
もう一役の舌長姥、薄気味悪くも可愛らしい。
獅童さんの朱の盤坊は、愛嬌があり豪快。
が、声が大き過ぎて、幻想的な雰囲気が壊れてしまう…と思うことしばしば。(^^;;
片岡亀蔵さんの小田原修理は、人間臭さたっぷり、手堅く充実です。
前半は、姫路城の天守で腰元たちが白露を餌に秋の草花を釣り、亀姫一行を出迎え、もてなし、見送る…透明感あふれ爽快、美しく華やかです。
台詞を噛み締めるほどに、意味深くなる、重厚な後半。
富姫と城主の愛鷹を探しに来た図書之助の出会い、図書之助を一目で愛してしまった富姫、富姫に惹かれる図書之助。
(亀姫に贈った城主の愛鷹は、「爪王」の吹雪が成長した姿…???(笑))
一度は下界に戻るものの、お家の重宝(富姫が与えた兜)を盗み出したと疑われ、追い立てられ、再び天守にやって来た図書之助。
追っ手が迫り、富姫と図書之助は獅子の母衣に身を隠すも、獅子が両目を刺されると、富姫と図書之助をはじめ天守の世界の生きる物は皆、失明し闇に迷い、ともに死のうとします。
獅子頭を彫った近江之丞桃六がどこからともなく現れ、獅子の目に鑿を当てると、二人は光を取り戻して寄り添い、桃六は二人を温かく見守ります。
現実と幻想、二つの世界を超越するような不思議な存在の近江之丞桃六。
富姫たちは人間の社会的しがらみの外で生きていますが、獅子頭のある姫路城天守閣という場所の呪縛から離れては生きていけない存在なのでしょう。
照明、スモークなどによる拘りの演出で幻想的な世界を描いています。
先週、TV放送された「密着!中村屋ファミリー」を見ました。
平成中村座姫路城公演(5月)『天守物語』(七之助さんによる初役・富姫)を上演するにあたり、
玉三郎さんが連続11時間にもわたり熱血指導をする様子、舞台演出への拘りが印象に残っています。
玉三郎さんは、この『天守物語』の全役の台詞を把握・記憶され、全ての役の指導をされたとのこと。
いつか朗読劇を聴いてみたいものです。
今年の道楽納めでした。
先月、ダメになってしまったお気に入りのバッグ…
実は、正規ショップで購入したものではありません。(^^;;
(昔、行きつけにしていた、今はなきキムラヤで購入。(^^;;)
20年以上前の製品なのですが、修理できるか尋ねたところ、一度持ち込みをして出来るかどうかを判断、見積もりを出すとのこと。
(修理といっても、結構いいお値段するのだろう…と予想)
形は気に入っているものの、実は使い勝手はあまり良くないこともあり、
見積はお願いしつつ、気分を変えて何か新しいものはないかしら…気長に探そう…と思っていました。
そんな思いで観劇ついでに百貨店やネットで見ていたところ、先日、某ブランドのホーボーバッグに一目惚れしてしまいました。
とはいえ、世界的な物価高と円安の影響で、定価ではとても手が出ない無理だな…と思っていたところ…
(昔はよくブランド・バッグを買ってたものだよな、もう無理無理無理!!)
が、しかし、クリアランスセールで何と30%値引きとのこと。
そんなこと言われ、定価と割引率を提示されたら、欲が出てきます。
数日間悩んだ挙句、世間でのクリスマスの高揚感に乗って、数日間悩んだ挙句に、この日、観劇前に購入してしまいました。
(在庫は少なく、3連休が入ると売れてしまう可能性大と、最初に見た時に店員から言われていましたが、新品あり、縁があったのでしょう。)
バカな私……(^^;;(^^;;
でも、また長く愛せるバッグです。