池井昌樹『理科系の路地まで』(5)(思潮社、1977年10月14日発行)
「浪花節」。うなっているのは、祖父である。
だれの声色か
祖父の口を通して流れ出た
遠い昔のうらみ声
ぬらりぬらりとゆれている
祖父は自分で「浪花節」をうなっているのではない。だれかの声が「祖父の口を通して流れ出た」。
同じように、池井は、池井のことばは、「池井の口を通して流れ出た」だれかの声だと感じているのかもしれない。「声」にかぎらず、いま、ここに存在するものは、すべて過去から流れ出たものだと池井は感じているのだと思う。
「沈んだ港」には、こんなことばがある。
うごめいている
二度と生まれてくることのできない
古い写真の世界
「二度と生まれてくることのできない」と池井は書くが、その否定を通して、そこに生まれてくるものがある。それは、抑えようとしても抑えきれないもの、「流れ出てくる」ものなのだろう。
これはひとつの矛盾だが、矛盾でしか書き表すことのできないものがある。
「ばんば川」
ぬるりとした何かが足をさわって行き
もしもぼくがふみつぶして見ても
それが何者であるかはわからない
「流れ出てくるもの」は「あふれでてくるもの」。それを、池井は一方で「ふみつぶす」こともこころみる。しかし、それが「何者であるかはわからない」。
「わからない」からこそ、書くしかないのだ。そして、書くことで、池井は「何者かに」なるのである。
池井の詩に池井はいない。池井ではなく「何者かに」なって、ことばのなかに存在している。
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