ルカ・グァダニーノ監督「クィア」(★★)(KBCシネマ、スクリーン2、2025年05月09日)
監督 ルカ・グァダニーノ 出演 ダニエル・クレイグ、ドリュー・スターキー
予告編を見たときは、ダニエル・クレイグの孤独感と焦燥感がスクリーンを支配していて、悲しく、同時にこっけいだった。それがどんなふうに展開するか期待して見に行ったのだが。
前半は、金だけは持っている男の汚さが、とてもよく描かれていた。ダニエル・クレイグは金の力で男を手に入れたいのではない。しかし、彼の誘いにのる男は、どうか。ほんとうにダニエル・クレイグを愛しているのか。どうも違うようである。だからこそ、ダニエル・クレイグは苦しむ。苦しみを忘れるために、酒におぼれる。
その目の前にドリュー・スターキーがあらわれる。透明感がある。その透明感を、眼鏡で隠している。(後半、眼鏡をはずして目を見せるシーンがあるが、その目はとても美しい。)だが、どうやって近づいていいかわからない。それまでの男のようには誘いに乗らない。何かしら、「距離」を保とうとする。
この「距離」を乗り越えるために、ダニエル・クレイグは「テレパシー能力」を手に入れようとする。ことばを発せずに、直接、ドリュー・スターキーに語りかけたいのである。
この欲望は、セックス(ことばを交わさない交渉、接触)をしてあとでも、ダニエル・クレイグの意識から離れない。つまり、それはセックスをしたあとでも、ドリュー・スターキーが自分のことを愛してくれているかどうかわからない、という気持ちの裏返しである。この部分を、どうすることもできない欲望をもっとていねいに描いていけば、この映画は傑作になったと思う。
しかし、後半、そのテレパシー能力を他に入れるために(そのための植物を手に入れるために)、南米のジャングルの中へ入っていく、アメリカの学者に出会うという部分は、孤独感、焦燥感よりも、ドラッグ中毒との闘いがメーンになり、がっかりする。ドラッグの問題は、それはそれで大きな問題だとは思うが、こういう描き方をすると、ドリュー・スターキーへの渇望(ことばを必要としない一体感の体験)と、ドラッグへの渇望が同列になってしまう。それでは、人間の苦悩の描き方として、ちょっとおかしくないか。こんな生き方をしているかぎり、ドリュー・スターキーは去っていくだろう。実際、彼はダニエル・クレイグを捨ててしまうのだが。
アメリカではなく、メキシコで渇きをいやそうとするアメリカ人。その目の前にあらわれたアメリカの男が持っていない何かを持ったドリュー・スターキーがあらわれ、そのためにダニエル・クレイグの孤独と焦燥がさらに深くなる。セックスをして喜びを手に入れれば入れるほど、それを失ってしまわないかと苦悩するという前半の部分のトーンを崩してしまっては、ダニエル・クレイグを主演にしたおもしろさがなくなる。ドリュー・スターキーの透明感も、ドラッグ中毒者の幻想になってしまう。
これではなんだか、ダニエル・クレイグの裸を撮りたくて映画を撮ったという感じになってしまう。ルカ・グァダニーノ監督としては、それで満足だろうけれど。「君の名前で僕を呼んで」では、セックスを体験したあとの、せつない透明感を描き出した監督だけに、とても物足りない映画としか言いようがない。
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