藤井貞和「二個--応援歌」 | 詩はどこにあるか

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藤井貞和「二個--応援歌」(「イリプスⅢ」11、2025年04月15日発行)

 藤井貞和「二個--応援歌」。朝日カルチャーで受講生といっしょに読んだ。

きみは通過する、二個のあいだを。
二個とは何だろう、
ちいさくなった二個。
きみとぼくと、かもしれない。

きょうはきのうのかたわれで、
あしたはもっと断片になる。(そんなこと わかりきって、
虚〈キョ〉だよな。)虚の終わる記号の前面を、
通過せよ、二個のあいだ。
きのうとあしたと、かもしれない。

 「二個が何かわからない」という声が漏れた。
 それは、作者の藤井にもわからない。「かもしれない」ということばがある。これは「わかる」と「わからない」のあいだを動いている。それは、端的に言いなおせば、やっぱり「わからない」。
 わからないことを書いていいのか。
 そういう質問があるかもしれない。
 私は、答える。「わからないから、書く。書きながら、何かを探す。探すためには、書くしかない」。それが詩であり、文学だと思う。わかっていたら、書く必要はない。
 途中を省略して、四連目。

惨とし、影はものがたるね。
惨として問うね。ことばがこちらを向く。
これは夢ではない、
つらいな、影とことばと、
これがさいごでありますように、と。
不明の二個を、
不明なままに置け。 応援する。

 「惨」。「さん」と読むとき、私は「三」を思う。「二」の次の数字。「二個」が何であるかを問うとき、それは「二個」のうちの「一個」の声だろうか。「二個」のうちの「他方」の声だろうか。それとも「二個」を認識する、第「三」の声だろうか。その場合、「三」は藤井だろうか。「三」になってしまった自分を「惨」と感じているのだろうか。というようなことは、たぶん、どれだけでも書きつづけることができる。どう書いても間違いではないだろう。「二個」が「わからない」のだから。
 いい加減だなあ、とだれかが批判するかもしれない。私を。そして、私を「いい加減だなあ」と批判したのは、藤井かもしれない。
 まあ、気にしない。
 最終連。

あしたのことばを送る、
二個から二個へ。
だれもその行方について知らない。
二個よ、周囲はまだ明るいか。

 これが、ほんとうに作品の「終わり」なのか。「結論」なのか。
 もちろん「結論」なんかではない。どんなことばにも「結論」はない。そこまで動いていって、そこから動けなくなったというだけのことである。
 つづきは、ある日突然、別の詩の形で動くかもしれない。そのとき「二個」とは、「一個」がきょう引用した詩であり、もう一個は、そのときに書かれる「まだ存在しない詩」かもしれない。
 おいおい、存在しないものを含めて「二」ということがあり得るのか。
 あり得るさ。ことばは、書いてしまえば、それが存在する。ことばには、そういう力があるから、ひとは(詩人は)、ことばを書く。
 「何か、まだ自分でもわからないものを、存在させ、それがほんうとかどうか確かめたい」から書く。

 ことばにならない何かを引き出してくれる、「誘い水」のようなことばが、私は好きだ。




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