破棄された詩のための注釈18
谷内修三2020年09月06日
階段の踊り場で感情が複雑になった。引き返したい気持ちに襲われた。あの部屋で二人は何を見つめているか。しかし、口元まで出かけたことばは欲望を明確にしたがらなかった。手は、手すりの上で動かない。
こんなとき、記憶をどこまで遡らせればいいのか。
呼び鈴がなった。コートを脱ぐのを手伝おうという声に振り向いた。砂糖がたっぷり入った、粘っこいコーヒー。甘さを味わうのか、苦さを味わうのか。集中できない。意識の地下室でキラキラしたものがぶつかりあって、ことばではなく、声が出てしまいそうだ。