冨岡悦子「文庫本」 | 詩はどこにあるか

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冨岡悦子「文庫本」(「タンブルウィード」8、2020年08月25日発行)

 冨岡悦子「文庫本」。簡潔な詩だ。

書き込みのある
佐藤春夫詩集の文庫本には
ところどころ茶色いシミがある

喉の奥を押して
夏至の雨のように
声がよみがえる

ふといずこよりともなく 君が声す
もういちど聞きたくて
耳を澄ますと
自分がどこにいるかわからなくなる

百合の花の匂ひのごとく 君が声す
花びらは一度ひらくと
閉じていたころの自分に
二度ともどれない

 書き出しの「書き込みのある」がおもしろい。「書き込み」は過去の自分がしたものである。それは、そのとき、瞬間的に開いた冨岡の「花びら」である。もし、冨岡が百合の花ならば。
 そこには「声」がある。佐藤の詩を読むことで誘い出された冨岡の声である。
 その声は、聞こえそうで聞こえない。聞こえなさそうで聞こえる。だから耳を澄ます。そうして自分がわからなくなる。それは、悲しみか。悲しみと読んでしまえば「抒情詩」になる。
 それはそれでいいのだが。
 この詩には、何か「抒情」におぼれない「自制」が動いている。
 どの連にも「過去形」がない。動詞はすべて「現在形」である。「過去」を思い出しながらも「いま」をしっかり生きている、というところに「自制」の根拠のようななものがあるのかもしれない。








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