山﨑修平『ダンスする食う寝る』 | 詩はどこにあるか

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DON'T TRUST OVER THIRTY の始末に時間がかかっている冷蔵庫を買って電源を入れて何もいれないまま箱として使って平たいのっぺりした道にいつものように集まった俺らは持ち寄っていた


 私は、ここでは「平たいのっぺりした」でつまずいた。リズムが急に「ゆっくり」する。「……て……て……て」というだらだらしたリズムを考慮しても、何か「拍」が遅れた感じがする。それが「いつものように」というさらにのんびりしたことばにつながっていく。
 それに類似した、妙な感じが「ダンスする食う寝る」にはある。「DON'T TRUST OVER THIRTY 」のように突然はじまるのだが、その「突然」が維持できなくなっていく感じ。
 ただし、


ダンスする食う寝るダンスする食う寝るそしてあなたが光らせた花のしおれてゆくまでの日々のことを


 というリズムに、私は、「あっ、美しい」と思わず声を上げてしまった。
 思うに「ダンスする食う寝る」でひとつのリズムではなく「ダンスする食う寝るダンスする食う寝る」と繰り返すことでひとつのリズムになっているのだ。
 詩の中に「16ビート」ということばがでてくる。私は音楽は何もわからないので、「8ビート」と「16ビート」の違いがわからないが「ダンスする食う寝る」が「8ビート」なら「ダンスする食う寝るダンスする食う寝る」は「16ビート」だろうか。もし、そうであるなら、詩集のタイトルは「ダンスする食う寝るダンスする食う寝る」の方がよかったと思う。この詩集のリズムは「16ビート」なのだ。「8ビート」感覚で読んではいけない。そう最初から告げるべきだと思う。加速していくピートを楽しむ詩集なのだと告げておいた方がいいと思う。
 と書いた上で、さらに言えば。
 「DON'T TRUST OVER THIRTY 」という「音」が「1・1・2・2」と加速するように、「ダンスする食う寝るダンスする食う寝る」も、は繰り返すことでで加速する。加速することでリズムが強くなる。
 とはいえ。
 これは音楽音痴がかって思っていることであって、音楽(ダンス)のリズムはもっと違うのかもしれないけれど。
 山﨑の狙っているのは、「8ビート」「16ビート」のミックスしたリズムかもしれないのだけれど。

 音楽が何もわからない私が気に入ったのは、「開かれた窓」。


どうしてもこうなっていたと思うんだよね古い写真立てに写真は飾られていない
たとえば未完成の高層ビルディングを描く一人の男の話だ
貝のなまえ、海のなまえ、海岸のなまえを尋ねてあなたは贈り物を受けとる
自転車で知らないことろへ近づいて
はじめてまっすぐな道路は続いて
もう一度ハナミズキを見に行こうと声は細くしなやかに都市をほどいてゆく
17時5分、紀伊國屋書店新宿本店2階の窓から
切手の大きさの一点を見る夢を咥えてたくましいひかりばかりで
ほんとうはここでしょここでないところ


 行から行への変化そのものに「加速」がある。この「加速」は「飛翔」でもある。スピードがあがるとことばが「浮く」感じになる。それが気持ちいい。
 ただし「自転車で知らないことろへ近づいて/はじめてまっすぐな道路はつづいて」は持続力がなく、失速した感じがする。なぜ二行にわけたのだろうか。一行のなかでの「切断」と「接続」を維持した方が「16ビート」という感じになるのではないだろうか。
 この「間延び」(16ビートから8ビートにもどった感じ)が最後の三行に影響してしまうのが、私には残念に感じられる。


すると、するするとほどけてゆく
「情けないね、ほんとうに聴きたい音楽は」たよりない語尾と、所在なげな笑みを浮かべて
「パブロ・ピカソは長生きだったってこと?」たぶん晴れてきているのに雨傘しかもきれいな


 「ことば」は増えているのに、凝縮した感じ(加速、飛翔)が消えて、拡散してしまった感じ。七行目に出てきた「ほどいてゆく」が「ほどけてゆく」に変化してあらわれるのは、「転調」というよりは、「サビ」を狙った技巧のようで、私にはあざとく感じられる。
 「16ビート」の現代詩は、書くのがむずかしい?
 そうかもしれないなあ。






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