嵯峨信之『詩集未収録詩篇』を読む(56) | 詩はどこにあるか

詩はどこにあるか

詩の感想・批評や映画の感想、美術の感想、政治問題などを思いつくままに書いています。

「初期詩篇」から

* (匂い 距離のために凋みはじめる)

形  時間に影をたべられる
己  円周のないむなしい歴史

 「己」を「巳(み、へび)」と読んでみたい衝動に襲われる。
 蛇が尾を噛むと「円」になる。蛇がどぐろを巻けば、そこに「円」があらわれる。しかし、それはいつでも完全なものではない。「むなしい」がつきまとう。

 私は小学生のころ、どぐろを巻いた蛇を、気づかずに踏みつけたことがある。裏の池のそばだった。蛇はどぐろを解いて、私の足をのぼり始める。私はとっさに足を池に突っ込んだ。蛇はさーっと解けて、水の上を泳いでいった。夢のようなできごとだが、夢にしてはあまりにも鮮やかすぎる。そのときの、ほどけていった「円周」というものを思い出すのである。











*

詩集『誤読』は、嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で書いたものです。
オンデマンドで販売しています。100ページ。1500円(送料250円)
『誤読』販売のページ
定価の下の「注文して製本する」のボタンを押すと購入の手続きが始まります。
私あてにメール(yachisyuso@gmail.com)でも受け付けています。(その場合は多少時間がかかります)