嵯峨信之『OB抒情歌』(1988)(74) | 詩はどこにあるか

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メモラビリア

眼をひらいていると見えない白昼の星が
眼をつむると深紅のまぶたのうらに遠い砂漠のようにひろがる

 「眼をひらく」「眼をつむる」、「見えない」「ひろがる(のが見える)」。「見える」という動詞は書かれていないが、「意味」はそういう対句になっている。
 「対」は対になることで、単独のときは存在しないものを出現させる。

われわれになんの関わりもないその静かな世界を
あこがれの深いまなざしで仰いでいると
誰も触れたことのない大きな空間に触れる

 「大きな空間」よりも「誰も触れたことのない」の方が重要である。「触れる」と嵯峨は書くが、それは「生み出す」のである。嵯峨のことばが。
 詩はいつでも、「誰も触れたことのない」ものを出現させる。

(このシリーズは今回でおわりです。)









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詩集『誤読』は、嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で書いたものです。
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