嵯峨信之『OB抒情歌』(1988)(49) | 詩はどこにあるか

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* (かの女の紅葉の一枚のような言葉の周りを)

 この詩は何度か転調するが、なかほどあたりに次の二行がある。

あなたはぼくらのステージに白い鴎を放たないか
豪雨を越えてきたあの白い鴎を

 「紅葉」から「白い鴎」への変化は色の変化とともに、落下から舞い上がる運動への変化でもある。また「放つ」という動詞の主語は「あなた」である。ここから「主語」が「ぼく」から「あなた」へ変化していることもわかる。「あなた」に「ぼく」は希望のようなものを託している。
 「白」は最終行で、もう一度復活してくる。

誰も知らない白いハンカチのようなふたりの小さな幸福のために

 「ぼく」と「あなた」は「ふたり」に変わり、「ふたり」であることによって「誰も知らない」存在にもなる。そして、それは「白」に象徴される生き方なのだ。







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詩集『誤読』は、嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で書いたものです。
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