嵯峨信之『OB抒情歌』(1988)(3) | 詩はどこにあるか

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* (女は)

女は
白い腕をのばして星をつかみたいとおもいました
葡萄棚から一房の葡萄の実をもぎとるように

 とても美しい比喩だ。星が、まるで手の届くところにあるかのように錯覚してしまう。「もぎとる」という肉体の動き(動詞)がそう感じさせるのだ。
 しかしこの「肉体感覚」は逆襲する。「肉体」が自己主張し、星をけちらしてしまう。この「比喩」の対立はおもしろい。

しかし髪の毛がたいまつのように燃えさかるので
星はおりてくるまに凋んでしまいます

 モダニズムの抒情からリアリズムの抒情への「転換点」がここにある。嵯峨は女の「髪の毛」に見せられている。それは「星」よりも美しい。「星」に手を伸ばすように、嵯峨は女の髪に手を伸ばす。この抒情の転換を肉体の勝利宣言と呼ぶことができる。






*

詩集『誤読』は、嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で書いたものです。
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