池澤夏樹のカヴァフィス(146) | 詩はどこにあるか

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146 さあ、あなたはラケダイモンの王

 池澤の註釈。


 これは136「スパルタで」の母と息子の場面の続きである。


 そのクライマックスは、後半にある。


威厳を取り戻したこの健気な女性は
クレオメノスに言った、「さあ、あなたはラケダイモンの王。
ここを出る時には、
涙もスパルタらしからぬふるまいも見せぬよう。
そこまでは私らの力の及ぶ範囲です。
その先のことは神々の手の中にあるとしても」

そう言って彼女は船の方へ、「神々の手の中にある」ものの方へ、歩み出した。


 「私らの力の及ぶ範囲」ということばが強い。ほんとうは、この強いことばこそが繰り返され、読者のこころに刻まれるべきものである。しかしカヴァフィスは、逆に、そのことばの対極にある「神々の手の中にある」を繰り返している。
 この瞬間、人間が「神話」になる。
 詩人はそう言うが、逆じゃないか、という「反論」を私のこころは叫ぶ。
 この構造は、とてもおもしろい。
 「共感」「同意」ではなく、「反論」のなかでつかみ取る真実。読者に真実をつかみとられるために、あえて逆を書く--ということをカヴァフィスが狙ったかどうかわからないが、私は、そう感じた。
 「神々の手のなかにあるもの」など、どうでもいい。


 


 


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