池澤夏樹のカヴァフィス(127) | 詩はどこにあるか

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127 シリアを去るソフィストに


あなたはアンティオキアについて本を書こうと
考えておられる。それならばメビスのことを
必ずお書きになるよう。
間違いなくアンティオキアで最も美しい


 この前半のことばは、最後にこう言いなおされる。


アンティオキアで、とわたしは言ったけれど
アレクサンドリアでも同じこと、ローマにさえ
メビスほど魅力あふれた若者はいないのだ。


 街が比較される。規模としては、アンティオキアがいちばん小さいのだろう。アレクサンドリア、ローマと順に大きくなるが、そういう街の大きさ(人口の多さ)を超えて、メビスが傑出している。
 彼がアレクサンドリア、ローマへ行かないのは、彼を目当ての人がアレクサンドリア、ローマからもやってくるということだろう。
 詩のなかほど、


最も讃えられる有名な若者。彼と同じことをして
同じだけの報酬を得られる者は
他にいない。メビスと共にほんの二、三日
暮すだけで人は百スタテルも払うのだ。


 この部分が、他の街からも人がやってくることを証明している。よそから来た、もう機会がないと思うからこそ、大金をつかっても惜しくはない。
 メビスの魅力を書いているというよりも、その魅力にとりつかれた人のことを書いている。

 池澤は、こう書いている。


カヴァフィスに多々ある若者の美貌を讃える詩のひとつ。ただし彼は高等娼婦のようにプロフェッショナルである。


 この見方は、少し冷たくて、寂しい。「美貌」については、カヴァフィスは「アンティオキアで最も美しい」とありきたりの「慣用句」ですませている。あとは「金」のことが書かれているが、金は若者にではなく、彼を目当ての人間に属するものだろう。




 


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