13 アジサイ前線
ビルを囲ったシートの緑が
風に膨らみ風にしなう雨の午後
私の考えは逃げていく激しく
叩かれて色を失う山の向こう
ここではないどこかへ
逃げていこうとする
「幻は卑近距離に引きずられる感情の形
アジサイの色は土壌の
水素イオンによってかわる
見えないところで動くものが現象
として私たちにやってくる」
咲き始めた花に頼ったことばを
かすめて生ぐさい白につまずいて
隠せると思ったこころが浮いてくる
(ここではないどこか)
土とコンクリートブロックの
ぬれることでひきだされた黒の
差異について考えれば
(ここではないどこか
私を支えていたものが遠くなる)
時間をなくした男になって
アジサイに割り込まれる
「説明はいつも誘惑的です
だからこころは離れていくのです」
ふいに向きを変える女の足首に
照らしかえされている
(アルメ235 、19855年08月10日)