アルメ時代(2) | 詩はどこにあるか

詩はどこにあるか

詩の感想・批評や映画の感想、美術の感想、政治問題などを思いつくままに書いています。

室町ふたき旅館



磨き込まれ水のように光る玄関の板の間
おばあさんが夕刊を読んでいる
奥の柱や階段が板に映って黒く透き通る
広げられた新聞は小さな舟
おばあさんは夕暮れの光を利用して
短い旅に出る
けれどすぐ引き返してしまう
「人間はどうして同じ道ばかり
たどるんだろう」
それからおじいさんに小さな嘘をつくために
きれいに四つに畳んで
まがった腰で奥へ消える
「読み終わったら世の中のこと
おしえてくださいね 私には
わからないことばかりだから」



(アルメ229、1984年11月10日)