池澤夏樹のカヴァフィス(100) | 詩はどこにあるか

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100  デマラトス

 スパルタの王・デマラトスは王座を奪われペルシャにつかえた。ペルシャがギリシャを攻めたとき同行したが、ペルシャは敗れた。そのときの思いを書いている。ただし、カヴァフィスはそれを「心理」とは書かずに、


デマラトスの性格という主題--


 と「性格」と定義している。
 ギリシャの勝利、ペルシャの敗北を目にした最終蓮。


さまざまな思慮と用心を重ね、ために
デマラトスの日々は懊悩に満ちた。
さまざまな思慮と用心を重ね、ために
デマラトスには一瞬の喜びもなかった。
だからその時に彼が感じたものも喜びではない、
(違うのだ、彼は決して喜びとは認めまい
なぜ喜びなのか? 彼の不運は限りないのに)、
勝利を得るのがギリシャ勢の方であることが
次第に明らかになったその時でさえ。


 喜んでいいのか、喜んではいけないのか。この問題を「性格」と呼んでいる。たしかにここから「性格」が生まれてくるのだろう。
 しかし、そういうことよりも不思議なのは「喜びではない」「喜びとは認めまい」と否定のことばが重なると、逆に「喜び」のこころが浮かび上がってくる。「さまざまな思慮と用心を重ね、ために」の繰り返し、特に「ために」という「論理」の繰り返しが、おさえてもおさえてもおさえきれない「本能」があることを教えてくれる。
 こころはいつでもこころを裏切る。「意志」を「本心」が裏切るといえばいいのか。そして、そう読むとき、これはカヴァフィスの恋そのものに通じるこころと読むことができる。「理性」では何をしなければいけないのかわかっているのに、「本能」はそれを裏切り続ける。

 池澤は、こう書いている。


ギリシャは捨てたとは言え祖国であり、ギリシャ側の勝利に対する心理的反応は微妙だった筈で、この詩の最後の部分はいわば深層心理の喜びを示唆している。





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