松川穂波『水平線はここにある』 | 詩はどこにあるか

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松川穂波『水平線はここにある』(思潮社、2018年09月25日発行)

 松川穂波『水平線はここにある』の「禁漁区」。


きのうの空は雲が多すぎた
鳥は空を脱ぎながら飛ぶんだ
飛べない鳥はどうするんだ
それは鳥に聞いてくれ


 リズムが心地よい。詩は、リズムだと思う。


なんでテニスのラケットなんか持ってるんだ
これで鳥をつかまえる
バカ おまえがつかまるぞ
羽毛一枚残して 突然消える
はは 魔術だな
なけなしの主題です


 「バカ」から「魔術だな」までは、つまらない。リズムしかないからだ。そうしてみると、詩はむずかしい。リズムがいちばんだけれど、それだけではことばはおもしろくない。
 「なけなしの主題です」は「鳥は空を脱ぎながら飛ぶんだ」へかえっていく。
 この転換は好きなんだけれど。


おまえが見たのは鳥ではないな
鳥さ あれが鳥なんだ 何もかも鳥さ 鳥なんてどこにもいないのさ


 で、これが「主題」だと私は「誤読」する。
 「魔術」が詩を壊しているな、と感じる。「魔術」と言い出したら、ことばは必要なくなる。

 「岩場で」は二つの詩で構成されている。そのうちの「海」。


潮だまりは置き去りにされた小さな海だ
底にはささやかな海藻を育て
風が吹くと律儀にさざ波をたてる
海のまぎわに暮らしながら
海の帰る日を待つ
海へ帰る日を拒む


 最後の二行の対構造が詩をくすぐる。矛盾が、その矛盾の瞬間、疑問にかわり、それが詩になるのだろう。
 三行目の「律儀」は松川の「人柄」をあらわしたことばかもしれない。

 「陸橋悲歌」には「藤安和子さんの思い出」という副題がついている。


階段をのぼっておりて
ただちに忘れ去るのが
陸橋の作法というもの
それはどこか日々の言葉に似ているが
時としてわたしは振り返る
あのささやかな高み
あなたとお別れした陸橋を


 「陸橋の作法」は、いいことばだな、と思う。


また逢ってください
もちろんよ


 こんなふうに会話を思い出すのところに、「作法の律儀」さを感じる。




*

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