池澤夏樹のカヴァフィス(66) | 詩はどこにあるか

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66 灰色

 「母色の眼」をもつ恋人のことを書いている。


わたしたちは一か月の間愛しあった
そして彼は去った。仕事を探して
スミナルへ行ったらしい。それ以来会っていない。


 池澤は「彼」にこんな註釈をつけている。


 原文では恋人の性は明らかではない。ほとんどの場合主語を省略して動詞のみという現代ギリシャ語の習慣を利用した手法。


 そうであるなら、池澤も性を暗示させる「彼」ということばを避ければよかったのではないか。「恋人」にすれば「彼」か「彼女」か、それは読者に委ねられる。


その灰色の眼は--彼が生きていても--醜くなったろう。
美しい顔とて今はもうあるまい。

記憶よ、かつて見た姿を留めておいてくれ。
そう、記憶よ、あの恋から持ちかえれるものを、
なんにせよ、今宵こそ持ちかえってくれ。


 この二連は強い。
 カヴァフィスは恋人を思い出しているわけではない。灰色の眼を「愛した」ということ、自分自身の「欲望」を思い出しているだけである。そして「記憶」にむかって呼びかけている。あの瞬間の「記憶」そのものを、カヴァフィスの「欲望」を持ち帰れと。











 


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