池澤夏樹のカヴァフィス(46) | 詩はどこにあるか

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46 賢者は将に起こらむとするところを知る

 神々は予言能力を持っている。これに対して賢者はどうか。


賢者はこれから起ころうとすることを
知覚するのだ。深く研究に
没頭している彼らの耳は時おり
乱される。起ころうとしていることの
隠れた物音が近づいてくる。


 この部分に私はカヴァフィスを感じる。「耳」と「音」に。
 カヴァフィスの賢者は「眼」で何かを「見る」のではない。幻視、ではない。
 あくまでも聴く。
 この「聴く」を耳が「乱される」というところが、とてもおもしろい。神経を統一して、耳をすまして「聴く」のではない。「深く研究に/没頭して」、「聴く」ことを忘れているのに、「音」が入り込んでくる。
 「隠れた音」が。

 だから、と書くと、飛躍なのだが。
 カヴァフィスが若い男に恋をして、その姿をことばにするとき、カヴァフィスは「姿」を見ているのではなく、肉体の奥に隠れている「欲望の声」を聞いているのだと思う。聞こえる人にしか聞こえない、特別な声を。あるいは欲望や美のギリシャ的慣用句を。つまり形式にまで高められ、共有されている音楽を。

 池澤は、こんな註釈を書いている。


 神と人の間におかれることによって賢者はもう一つ前の時代ならば英雄に付与された資質を得る。英雄が胆力や膂力によって人間以上であったのに対して、賢者は知力によってそうなる。








 


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