池澤夏樹のカヴァフィス(35) | 詩はどこにあるか

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35 アレクサンドリアの王たち


クレオパトラの子供らを見せるために
アレクサンドリアの民が集められた。


 彼らは、それぞれどこそこの王と宣言される。それが三連目で転調する。


アレクサンドリアの民は無論知っている、
そんな宣言がただの言葉、三文芝居に過ぎぬことを。
しかしそれは暖かい詩的な日のことで、
空の色も淡い青だった。


 しかもこの転調は、二回ある。
 華やかな宣言が「ただの言葉、三文芝居」と否定され、そのあと人事とは無関係の天候、空の青が描かれる。
 ここがとても美しい。
 「ただの言葉、三文芝居」は「意味」だが、「暖かい日」「空の青」には意味がない。自然(天候)は人事とは無関係に、絶対的に、そこに存在している。
 漢詩のなかに出てくる自然のようだ。

 最後の四行は、クレオパトラの子供ではなく、アレクサンドリアの市民の様子を描いている。この四行は、先に引用した四行があるからこそ、「人事」のむなしさのようなものを浮かび上がらせる。市民は、都市にとっての「自然」になるのかもしれない。


口々に、夢中になって、歓呼の声をあげ
見事な見世物に陶酔しきった--
内心ではこれらすべての無意味を知りぬき、
王位がからっぽの言葉にほかならぬことを承知しながら。


 池澤は、


カヴァフィスは歴史の皮肉を民衆の心の二重性の中に見ている。


 と書いている。





 


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