池澤夏樹のカヴァフィス(27) | 詩はどこにあるか

詩はどこにあるか

詩の感想・批評や映画の感想、美術の感想、政治問題などを思いつくままに書いています。

27 ティアナの彫刻家


 ローマ彫刻の瑣末主義に従っている。「忠実に似せ」ること、馬が水の上を走る感じを出すことが彼の技術的誇りとなる。その彼がほんの一瞬だけギリシャ的理想への接近を口にする(略)のが最後の聯。これがローマとギリシャの文化的関係をうまく表している。


 と池澤の注を書いている。その最終連。


しかし、わたしが最も愛するのは
最も心を尽くし、情を移して制作したのは、
この像。ある夏の暑い日、
わが心が理想の境に遊んだ折に
夢の中に現れたこの姿、若いヘルメスだ。


 「最も」が繰り返され、「愛する」が「心を尽くし」「情を移し」と言いなおされる。ここに「熱中」がある。ギリシャの「集中力」がある。
 形を似せるのではなく、形を「理想」にする。
 それは確かに池澤の指摘する通りだと思う。
 でも、私がおもしろいと思ったのは、前半にある


こちらはパトロクロス(まだ少々手直しするつもり)。


 この一行。その括弧の入った部分。(まだ少々手直しするつもり)は実際にことばにされたのか、それとも彫刻家がこころの中で思っただけなのか。
 判断は分かれると思うが、こころの中で思えば、それは口に出したのと同じである。特に、この詩を読む人間にとっては差異はない。
 あるいは口に出したけれど、本人はこころの中で思っただけということもある。声になっていることに気づいていない。それくらい、「肉体」にしみついてしまっている思い。
 この「集中力」が、最後の連とつながっていると思う。
 「思い」が無意識に理想を引きつける、理想に向かって動いていく。




 


「高橋睦郎『つい昨日のこと』を読む」を発行しました。314ページ。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168074804
↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑
ここをクリックして2500円(送料、別途注文部数によって変更になります)の表示の下の「製本のご注文はこちら」のボタンをクリックしてください。

オンデマンド形式です。一般書店では注文できません。
注文してから1週間程度でお手許にとどきます。



以下の本もオンデマンドで発売中です。

評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料別)
読売文学賞(翻訳)受賞の中井の訳の魅力を、全編にわたって紹介。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073009

評論『ことばと沈黙、沈黙と音楽』190ページ。2000円(送料別)
『聴くと聞こえる』についての批評をまとめたものです。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073455