27 ティアナの彫刻家
ローマ彫刻の瑣末主義に従っている。「忠実に似せ」ること、馬が水の上を走る感じを出すことが彼の技術的誇りとなる。その彼がほんの一瞬だけギリシャ的理想への接近を口にする(略)のが最後の聯。これがローマとギリシャの文化的関係をうまく表している。
と池澤の注を書いている。その最終連。
しかし、わたしが最も愛するのは
最も心を尽くし、情を移して制作したのは、
この像。ある夏の暑い日、
わが心が理想の境に遊んだ折に
夢の中に現れたこの姿、若いヘルメスだ。
「最も」が繰り返され、「愛する」が「心を尽くし」「情を移し」と言いなおされる。ここに「熱中」がある。ギリシャの「集中力」がある。
形を似せるのではなく、形を「理想」にする。
それは確かに池澤の指摘する通りだと思う。
でも、私がおもしろいと思ったのは、前半にある
こちらはパトロクロス(まだ少々手直しするつもり)。
この一行。その括弧の入った部分。(まだ少々手直しするつもり)は実際にことばにされたのか、それとも彫刻家がこころの中で思っただけなのか。
判断は分かれると思うが、こころの中で思えば、それは口に出したのと同じである。特に、この詩を読む人間にとっては差異はない。
あるいは口に出したけれど、本人はこころの中で思っただけということもある。声になっていることに気づいていない。それくらい、「肉体」にしみついてしまっている思い。
この「集中力」が、最後の連とつながっていると思う。
「思い」が無意識に理想を引きつける、理想に向かって動いていく。
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