108 喧嘩の後に ポンペイのらくがきから
「おまえのけつに おれのもの つっこんでやる
おれのはでっけえから おまえの口から出るぞ」
「おれのはもっとでっけぇから おまえの口から
つん出て むこうの壁をつき破るからな」
ことばは暴走する。ことばは、できないことも語ることができる。ことばによって語られたのは、「欲望の事実」、あるいは「本能の真実」である。
つき破った壁のむこうは空 何もない青
ふり返れば壁も 穴も 突起もなくて
何もない 青い悲しみばかりが ひろがって
「何もない」のか、「青い悲しみ」があるのか。あるいは「ひろがり」があるのか。
この詩の「青い悲しみ」は、「107 地中海」の「紺青の渦のかがやき」である。
地中海は、青い。そして、そこにはいつも透き通った太陽がある。輝きがある。あまりにも集中しすぎて、透明になってしまった認識。それはあらゆる存在を、透明な力で明晰な論理にしてしまう。
この喧嘩も、喧嘩なのに論理的である。論理はいつも、ばかばかしい。
「青い悲しみ」とは、そういうあまりにもギリシア的な精神かもしれない。