自民党憲法改正草案を読む/番外51(情報の読み方)
プーチンの訪日を前に、読売新聞と日本テレビがクレムリンでプーチンにインタビューしている。その記事が読売新聞夕刊(2016年12月13日、西部版・4版)に載っている。15、16日の安倍・プーチン会談を前にしてのインタビューである。内容は安倍・プーチン会談での「テーマ」(報道されている予測)に重なる。先の外相会談が失敗したから、読売新聞と日本テレビが、安倍のかわりに「探り」を入れているという感じだ。いや、事実上の安倍・プーチン会談ではないか。
そのことにも驚くが、首脳会談がおこなわれる前にインタビューの内容を公表していることにも驚いた。もう安倍・プーチン会談は必要がない。なぜ、公表したのだろう。
公表されている内容の、次の点がポイント。
プーチンは「北方四島」について、「日ソ共同宣言」(1956年)を基礎とすると主張している。平和条約締結後に、歯舞と色丹を「引き渡す」。国後、択捉を加えて問題化することは「共同宣言の枠を超えている」と拒否している。
記事の言い方だと、歯舞、色丹の「引き渡し」はまだ可能かもしれないと感じられるが、絶対にない。安倍が「国後、択捉については返還要求をしません」と言ってしまえば「北方四島は日本の領土」という主張を否定することになる。そんなことは安倍にはできない。
3面に「インタビューの詳報」が載っている。次の部分が印象的だ。
--北方領土の問題はロシアから見ても、唯一残された国境線の問題だというふうに認識している。
ロシアには領土問題は全くないと思っている。ロシアとの間に領土問題があると考えているのは日本だ。
痛烈である。あたりまえだが、北方四島をロシアは実効支配している。日本の自衛隊が北方四島でロシア軍と戦っているわけでもない。「国境」は安定している。
さらに「北方四島」での「共同経済活動」についての「問い」と「答え」もおもしろい。
--(北方四島での共同経済活動は)ロシアの法律の下でなのか、日本の法の下でなのか、第三の機関を作って、その法の下でなのか。大統領の考えは?
日本人は非常に創造的で頭のいい国民だと思う。いまあなた方は、議論に値するアプローチのすばらしい例を示した。日本の主権下、島々で経済活動を展開する問題が提起された。しかし第一歩がそうだと第二歩は必要ないことになってしまう。
「ロシアの法律の下で」に決まっていると主張している。これは当然のことなのだが、その直前の「日本人は非常に創造的で頭のいい国民だと思う。いまあなた方は、議論に値するアプローチのすばらしい例を示した。」が実におもしろい。私は笑いだしてしまった。私の言い方で言いなおすと、このプーチンの「ほめことば」は、「日本が秘密裏に考えていることを教えてくれてありがとう(そんなととは知っているけれどね)」と言っているのに等しい。「日本から見れば、それはすばらしいアプローチだけれど、そんなことをしたらロシアの存在意義がなくなる。するわけないだろう」と叱り飛ばしているのである。でも叱り飛ばすだけでは申し訳ないから「第一歩がそうだと第二歩は必要ないことになってしまう」と少し「夢」をちらつかせている。「第一歩」はロシアの方の下で、それがうまくいけば「第二歩」を考えてみることはできる、と。でも、これは「第一歩」の段階で日本からしぼれるものは何でもしぼる。しぼれるものがなくなったら「第二歩」として歯舞、色丹は「引き渡し」してもいいかも、と言っているにすぎない。どの段階でロシアが満足する? 保障は全然ない。「第一歩」しかロシアは考えていない。
日本からどれだけ「経済協力」を引き出すか。プーチンの首脳会談の目的はそれだけである。
で、それが次の主張になる。2014年のウクライナへの軍事介入以降、ロシアに対してG7が経済制裁をしている。日本も制裁に参加している。
「制裁を受けたまま、日本と経済関係をより高いレベルに上げられるのか」「ウクライナやシリアの問題を、なぜ日本は露日関係に結びつけるのか」「日本が(米国との)同盟で負う義務の枠内で、露日の合意がどのくらい実現できるのか、我々は見極めなければならない。日本はどの程度、独自に物事を決められるのか」
アメリカの「承認」なしには何もできないだろうに、と見透かしている。「アメリカの承認をとったのか、ちゃんと承認を取っておけよ」と言われたようなものである。
こんな内容のインタビューをなぜ事前に公表したのだろうか。「日露会談」では日本が期待しているようなことは何も起きない、と事前に知らせることで国民の失望をやわらげるためなのか。あるいは、プーチンの考えていることを公にし、「世間」から「反論」の仕方を募集でもするつもりなのか。安倍の「知恵袋」に、この問題も考えないといけないと「提言」したいのか。
あるいは安倍が頼りないから、読売新聞と日本テレビがプーチンの「回答」を引き出してみました、ということなのか。
社会面では、秋田犬の「ゆめ」とプーチンの写真、柔道への熱い思いと、プーチンがいかに日本を愛しているか、みたいなことが書かれているが。
こんなのポーズじゃないか。
こんなことで日本から「経済協力」(経済投資)を獲得できるなら、とても「安上がり」。安倍が「愛読書はトルストイとドストエフスキー。ボリショイバレエは世界の最高峰」と言えば、「北方四島」は返還される? 返還されない。それなのに「柔道は私の初恋」とリップサービスし、愛犬と遊んで見せるだけで、プーチンは「経済協力」を引き出せるのだ。プーチンは感じのいいひとだ、「経済協力」をとおして、日露の新時代がはじまる、という「幻想」をばらまいている。
いったい、誰のための、何のための報道なのだろう。
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