千人のオフィーリア(メモ17) | 詩はどこにあるか

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千人のオフィーリア(メモ17)

うずまく川の上に組まれた橋をおぼえているか
水といっしょにくるくるまわるオフィーリアの目は
青いスミレのように何も見なかった
自分の悲しみのほかは。

書きかけの詩のなかに、そんなふうには書かないで。

履いていた白い靴。片方が脱げて流れて行った。
追いかけるようにオフィーリアは流れた。
早い夏。胡桃の天使の睾丸はまだ緑の皮につつまれている。
だれもそれを見てひとはいない。
詩に書かれのは西洋と東洋がいれかわる大きな戦争の後、

そんなふうに剽窃しないで。

うっそうとしげる木からしたたる樹液の、蜘蛛の糸のようなねばり。
隠れて読んだ本のページを破ったオフィーリア。
ここに書いてあるように書いてほしい。
でも読まれたくない。だから、
もうそのことばをだれも読むことができないように破って隠した。
六百四十三人目のオフィーリア。

そんなふうに書かないで。詩がどんなに行き詰まっても。

みな同じように女から生まれ、
ひとりひとりが違った死に方をする。
同じオフィーリアの名で呼ばれても。
そんなふうに、流通している哲学を書かないで。

街角のポスター。真新しい殺人、古くさいバイオリンの旋律。
ありきたりの感染症。
どんなことばもオフィーリアを輝かせる。

そんなふうに、詩には書かないで。




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詩集「改行」(2016年09月25日発行)、残部僅少。
1000円(送料込み/料金後払い)。
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