2016年09月15日読売新聞朝刊(西部版・14版)4面に「論点 生前退位」の7回目(最終回)がおもしろい。
「安定的継承 議論先送り/女性・女系天皇 割れる意見」という見出しがついている。2015年11月に、小泉内閣の「皇室典範に関する有識者会議」を踏まえた「法案」がどのようにして提案されなかったかを書いている。ここに、安倍が出てくるのである。
有識者会議がまとめたポイントは、
女性・女系天皇を認める
皇位継承順位は壇上を問わず天皇の第一子を優先する
女性宮家創設を認める
皇族女子と結婚した男性やその子どもも皇族とする
内親王はミスからの意思で皇籍を離脱できない
「当時の皇室には、皇太子さま、秋篠宮さまより若い世代に男子はおらず、「女性天皇」は愛子さまが想定された。政府関係者は「天皇陛下のご意向に反するものではなかった」と振り返る。」と書かれている。
「生前退位」は話題になっていないが、「皇位継承」は10年以上前から話題になっていた。「政治問題」だった。そのころから政府は「天皇の意向」を確認しながら、法律の準備をしてきたことがわかる。
で、2006年1月26日に、小泉は「3月に法案(皇室典範改正案)を提出します」と有識者会議の吉川弘之座長らに語った。ところが、2月7日、秋篠宮紀子が退任したことが明らかになり、状況が一変する。
小泉氏が(法案の)早期提出を主張すると、安倍氏は「総理、そうじゃないんですよ」と制し、こう説得した。
「今、改正すれば、お子さまが男の子だった場合、その子から愛子様に皇位継承権がぽーんと移ることになるんですよ」
男子が生まれた場合、誕生直前の法改正によって、皇位継承順位は原稿の3位から6位に変わってしまい、男子が即位できなくなる可能性が出てくることを懸念したのだ。
小泉が「男子」にこだわると「皇位継承」がとだえることを心配しているのに対し、安倍は「天皇は男子でなければならない」ということにこだわっている。
安倍のこだわりは、自民党憲法改正草案の前文、
日本国民は、良き伝統と我々の国家を末永く子孫に継承するため、ここに、この憲法を制定する。
を踏まえたものである。「良き伝統」とは家長制度のことである。その伝統の「見本」が「天皇家」である。父親(男子)が家族の中心。この家長制度の復活を狙った文言は、改正草案「第二十四条」にも読み取ることができる。現行憲法にはない「家族」「親族」「扶養」「後見」ということばがついかされている。家長(父親)が「家族/親族」を統制するという考え方である。そこでは「個人」というのもが軽視されている。
なぜ、家長制度にこだわるのか。国家と家族を重ね合わせようとするのか。国家を「家族」のように「運営」したい、という野望があるからだろう。内閣総理大臣が「家長」となって「国家」という「家族」を統制する。内閣総理大臣の意向にそわないことをするものは許さない、という野望があるのだろう。
で、こういう「野望」が、今回の一連の「生前退位」の問題とつながっていると私は思う。
ここから、私の「妄想」はさらに暴走する。
「生前退位」問題の出発点に、天皇の高齢化という「事実」がある。これは小泉時代の「有識者会議」のときから存在した。
この「事実」がもっている問題点を解決するために、小泉は「女性・女系天皇を認める」という「現実」に則した方法を考えた。
ところが安倍は、そうした「現実」的な考えには反対した。あくまで「男子天皇」にこだわった。そして、安倍のこだわりに合致するかのように、秋篠宮に男子(悠仁)が生まれ、「男子天皇」の「伝統」がつづく可能性が出てきた。
ここからが、問題。
安倍は、単に「男子天皇」がつづくことを願っているのではない。悠仁を「摂政」にして、安倍が悠仁をあやつるかたちで、内閣総理大臣に君臨し続けたいのだ。「摂政・悠仁」を実現することで、権力をより強大にしようとしているのだ。
自民党憲法改正草案に「後見」ということばがあらたに付け加えられていることを先に指摘した。「摂政」は「後見」とは異なる概念だが、「摂政」が幼い場合、だれかが「摂政」を補佐する必要がある。「補佐」とは「後見」にほかならないだろう。
「摂政・悠仁」の「後見」としての内閣総理大臣。安倍は、それを狙っている。
現行憲法でも、自民党憲法改正草案でも「天皇の国事行為」には「内閣の助言と承認を必要とする」(現行憲法)「内閣の進言を必要」(改正草案)と定めている。この「助言」と「進言」を比較すると、「助言」よりも「進言」の方が「後見」的要素(指導的要素)が強いように私には思える。「指導」のもとに天皇に国事行為をさせる、という感じが強くなると思う。
そういうことを安倍は狙っているのだと思う。
「妄想」からいったん「現実」にもどる。いや、「妄想」を拡大する。
(1)「生前退位」の出発点は、天皇の高齢化。
(2)小泉は「女性・女系天皇」を認める。
(3)安倍は認めない。安倍は、そこで「摂政」の設置を天皇側に提案したのだ。いいかえると「意向を確認した」のである。
(4)これに対して、天皇は「摂政」はだめだ、と反対した。そして「生前退位」がいいと主張した。理由は8月8日の「おことば」通り。天皇は「象徴」である。「摂政」は天皇ではない。摂政の設置では、天皇は死ぬまで象徴の勤めを果たさなくてはならない。それでは「負担の軽減」にはならない。
本当は、そういう具合に「事実」は進んだのではないのか。対立が明確になったのではないのか。報道では、天皇が「生前退位」の意向を漏らし、それを聞いた官邸側が「摂政」を持ちかけたという具合になっているが、順序が逆なのではないのか。
小泉のときも、有識者会議を設置し、そこで出てきた「結論」を天皇に報告し、意向をを確認している。天皇が皇位継承について小泉に法案をなんとかしろと呼びかけたわけではないだろう。そういうことをすれば、「政治行為」になる。
8月8日の「おことば」でも「政治的行為」について、天皇は二度も繰り返して言っている。発言が「政治的行為」にならないように、気を配っている。これも、今回の発言が天皇側からのものではない、という「証拠」になるだろう。安倍が、天皇を政治の場へ引っ張りだしたのである。
「生前退位」では「摂政」の設置は不可能。それでは安倍の野望は実現しない。どうするか。「摂政」の設置を実現するためには、どうすればいいか。「摂政」の実現のためには、天皇を追い出す必要がある。
そこで「生前退位」という気持ちを持っているということを、まず国民に知らせる必要がある。「高齢である」ということを国民に知らせ、天皇の負担を軽くする必要があるという「世論」をつくることからはじめたのである。籾井NHKをつかって、天皇の気持ちを「スクープ」させた。
その後、世論は、安倍の狙いどおりに動いている。ただし、世論調査によると、世論は「生前退位」をいまの天皇だけではなく、「制度化」する方を望んでいる。皇室典範の改正が必要になる。これは安倍の「想定外」だろう。
けれども、安倍は皇室典範の改正ではなく、特例法(特別措置法)で、これを乗り切ろうとしている。改正が安倍の思惑どおりに進むとは限らない。「摂政」の設置が常におこなわれるように改正されるは限らない。逆に「摂政」の設置ができなくなる可能性もある。特例法なら、何度でも特例法を制定すればいい。
安倍の姿勢には、それでは悠仁以後はどうなるのか、という視点が欠けている。安倍は、そういう「将来」のことなど一度も気にしていない。いまのことしか考えていない。いま、自分がどれだけ権力を行使できるか、ということしか考えていない。選挙にどうすれば勝てるか、ということしか考えていない。
自民党改正草案のとおりに憲法を改正し、いかに独裁者となるかしか考えていない。そのためには皇室も利用するのである。そういうことが、小泉とのやりとりからもうかがえる。
*
『詩人が読み解く自民憲法案の大事なポイント』(ポエムピース)発売中。
このブログで連載した「自民党憲法改正草案を読む」をまとめたものです。
https://www.amazon.co.jp/%E8%A9%A9%E4%BA%BA%E3%81%8C%E8%AA%AD%E3%81%BF%E8%A7%A3%E3%81%8F%E8%87%AA%E6%B0%91%E5%85%9A%E6%86%B2%E6%B3%95%E6%A1%88%E3%81%AE%E5%A4%A7%E4%BA%8B%E3%81%AA%E3%83%9D%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%88-%E6%97%A5%E6%9C%AC%E5%9B%BD%E6%86%B2%E6%B3%95-%E8%87%AA%E6%B0%91%E5%85%9A%E6%86%B2%E6%B3%95%E6%94%B9%E6%AD%A3%E6%A1%88-%E5%85%A8%E6%96%87%E6%8E%B2%E8%BC%89-%E8%B0%B7%E5%86%85%E4%BF%AE%E4%B8%89/dp/4908827044/ref=aag_m_pw_dp?ie=UTF8&m=A1JPV7VWIJAPVZ
https://www.amazon.co.jp/gp/aag/main/ref=olp_merch_name_1?ie=UTF8&asin=4908827044&isAmazonFulfilled=1&seller=A1JPV7VWIJAPVZ