自民党憲法改正草案を読む/番外6(情報の読み方) | 詩はどこにあるか

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自民党憲法改正草案を読む/番外6(情報の読み方)

 2016年08月06日読売新聞(西部版・14版)の記事が気になった。天皇の「生前退位」問題についての続報。天皇は08日ビデオで「お気持ち」を語るのだが、その内容について、三面の「スキャナー」で次のように書いている。


 誕生日の会見で述べられるようなお言葉は、同庁の責任で発表されるが、関係者によると、8日のお気持ちは慎重を期して、水面下で連絡を取りながら、官邸サイドにもチェックを求めたという。

 「慎重を期して」というのは、その発言が「政治的発言」にならないように、憲法違反にならないようにという意味だが、「官邸サイドにもチェックを求めた」というのは、どういうことだろう。
 もし、そこに「政治的発言」が含まれているなら、それを除外するように官邸が指示し、ことばを修正するということだろうか。
 それならば、それはどうしたって「官邸サイド」の「言わせたい」ことばになってしまうのではないだろうか。
 こういうことを「検閲」というのではないのか。
 さらに、

 「生前退位」など皇室制度に関する言及は、政治的な発言と受け取られないよう、避けるとみられる。天皇としての制約があるなかで、陛下のお気持ちを伝えるため、ことばを尽くした構成になり、発表されるビデオメッセージの長さは10分にも及ぶ。

 とある。「避けるとみられる」の「みられる」は推測だが、どうしてそのような推測ができたのか。どうして、それがわかったのか。
 「官邸サイド」で「避けるように」指導した、検閲した、ということではないのか。その「情報」が洩れてきたのではないのか。
 先に引用した部分の「水面下で連絡を取りながら」ということばが気になる。「水面下」なので、「事実」はわからない。「水面下」で主導権をとっているのはどちらなのかは、さらにわからない。

 二面の「首相、コメントへ」という解説記事には、次の下りがある。

 政府高官の一人は4日、陛下のお気持ち表明は8日と宮内庁発表に先立ち伝えた報道を受け、「宮内庁はマスコミを使って既成事実化しているのではないか」と語った。

 私はどうしても逆に読んでしまう。最初の報道が安倍の意向に沿ったことしか伝えないと明言している籾井NHKの夜7時のニュースであることを考えると、「陛下のお気持ち表明は8日と宮内庁発表に先立ち伝えた報道」は宮内庁以外のところからリークされたものであり、その宮内庁以外のところが「マスコミを使って既成事実化しているのではないか」と感じるのである。
 そしてこのときの「既成事実」とは「天皇が生前退位の意向を持っているが、そういう発言をすることは憲法違反である」「天皇は憲法違反をしようとしている」ということである。
 力点は「天皇の生前退位」が可能かどうか、その意向をどう判断するかではなく、「天皇は政治的発言を禁じられている、天皇は憲法違反をしようとしている」ということである。
 なぜ、「憲法違反」にこだわるのか。
 いまの憲法ではそれが憲法違反になっるのなら、憲法を変えてしまえ、という「本音」が、奥に隠れている。憲法改正に利用してしまえ、という宮内庁以外のところ、つまり官邸サイド、つまり安倍の意向を私は感じてしまう。
 二面の記事には、また次のことが書かれている。

 政府は今秋にも有識者会議設置を検討しているが、今後は世論の動向がカギを握ると見ている。憲法1条は「天皇の地位は日本国民の総意に基く」と規定しており、「国民の大半が『生前退位』を求めるムードが醸成されれば、法改正に動いても憲法違反にならない」(首相周辺)というわけだ。

 国民のあいだに「『生前退位』を求めるムード」をつくりだし(記事は「醸成されれば」と受け身で書いているのだが)、それを利用して皇室範典などを改正し、それを契機に(突破口に)憲法改正まで進もうとしているとしか思えない。
 「国民の総意」ということばを巧みに利用し、憲法改正を進めようとしている。
 どうすれば憲法改正を「国民総意」のものであると印象づけることができるか、必死になって演出しようとしているとしか思えない。「首相周辺」というのがだれのことかわからないが、そこに「首相」ということばがある。「安倍周辺」とは「安倍」そのものではないのか、と私は疑っている。

 読売新聞社の最新の世論調査では、生前退位できるよう制度を「改正すべきだ」との回答は84%に上っている。

 とあるが、このときの「生前退位できる」は、どういう意味だろう。「天皇が望めば」ということか。そのとき「天皇の望み」は「政治的行為」にしない、「退位」問題に関しては「政治問題」にはしないということなのだろうけれど……。
 もし、天皇ではなく、官邸サイド(首相周辺)が「天皇の生前退位」を望んだときはどうなるのか。官邸サイド(首相周辺)が、どんな「望み」をもち、それを発表しても、それが「政治的行為」であることを理由に「憲法違反」という問題は起きない。「政治的行為」をするのが内閣だからである。
 天皇が生前退位の意向を持っている。それを表明することは政治的行為であり、憲法違反であるというのだが、逆に、安倍が天皇を生前退位させたいという意向を持っている場合はどうなのか。天皇の政治的行為にはならないが、天皇の政治的利用にはなる。それもやはり憲法違反になるだろうと思う。憲法違反にならないようにするために、安倍は画策しているのではないか、と私は疑っている。

 「事前検閲」を受けている天皇のビデオ以上に、私は「予告された首相のコメント」の内容が気になる。その発言は宮内庁の「事前検閲」を受けているのだろうか。「そういう発言では天皇の気持ちをくみ取ったものではない、天皇の意向はそういうことではない」というようなやりとりをして、文言(表現)を調整しているのだろうか。
 読売新聞は、宮内庁側が「官邸サイドにもチェックを求めたという」とは書いているが、安倍側が安倍のコメントに対して「宮内庁サイドにもチェックを求めた」とは書いていない。「水面下」で交渉するのなら、両方が互いの表現をチェックするのが普通だと思うのだが。両者に上下関係がないのだとしたら。

 安倍+籾井NHKは参院選では「報道しない」という戦法で世論をリードした。そして作戦どおりに少数意見を封じ込め、選挙に勝利した。今度は「積極的に報道する」という戦法で、世論をつくりだそうとしているように私には感じられる。