第四章国会
(現行憲法)
第四十一条
国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。
第四十二条
国会は、衆議院及び参議院の両議院でこれを構成する。
第四十三条
両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する。
(自民党憲法改正草案)
第四十一条
国会は、国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である。
第四十二条
国会は、衆議院及び参議院の両議院で構成する。
第四十三条
両議院は、全国民を代表する選挙された議員で組織する。
「改正」は字句に限られている。ここでも「これを」を改正草案は削除している。「これを」は何度も書くが、「主語」というよりも「テーマ」を明確にすることばである。改正草案は「テーマ」を意識させないように「これを」を削除している。
現行憲法の「テーマ」性を強調して言い直すと、
第四十一条
国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である「と憲法は定める」。
第四十二条
国会は、衆議院及び参議院の両議院でこれを構成する「と憲法は定める/構成されることを憲法は保障する/構成されなければ国会とは認めない」。
ということになるだろう。そこに「国(権力)」が介入することを拒否している。
で、この「国会」の部分の改正草案でいちばんびっくりしたのが、第五十四条である。
(現行憲法)
第五十四条
衆議院が解散されたときは、解散の日から四十日以内に、衆議院議員の総選挙を行ひ、その選挙の日から三十日以内に、国会を召集しなければならない。
(改正草案)
第五十四条
衆議院の解散は、内閣総理大臣が決定する。
2 衆議院が解散されたときは、解散の日から四十日以内に、衆議院議員の総選挙を
行い、その選挙の日から三十日以内に、特別国会が召集されなければならない。
改正草案は「衆議院の解散は、内閣総理大臣が決定する。」と書いている。「解散」については、私の記憶では(中学校で憲法でならなっとき教わった記憶では)、第五章 内閣の第六十九条に定められている。
(現行憲法)
第六十九条
内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。
内閣が不信任されたときは、衆議院を解散し、選挙で信を問い直す(国民の信を確認して、不信任に対抗する)か、総辞職して内閣を他の党(他の人)に明け渡す。それはあくまで「不信任」に対抗する「手段」であると習った記憶がある。
総理大臣が自分勝手に「解散」などしてはいけない。
けれど、いつのまにか総理大臣が「解散権」を行使するようになった。その「根拠」は、私の読むかぎり「現行憲法」にはない。それを改正草案ではつけくわえている。つけくわえることで、いつでも総理大臣が自分の都合で「解散」できることになる。
これは、「議院内閣制」に反しないのか。
現行憲法「第四十一条 国会は、国権の最高機関であつて、」「第四十三条 両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する。」を無視することにならないのか。国民は選挙によって「国会」に意見を反映させる、「国会」は国民を意見を踏まえて「内閣」を構成するという「順序」が逆にならないか。内閣総理大臣が、恣意的に国会を操作してしまうことにならないか。
次の改正案も、非常に気になる。
(現行憲法)
第六十三条
内閣総理大臣その他の国務大臣は、両議院の一に議席を有すると有しないとにかかはらず、何時でも議案について発言するため議院に出席することができる。又、答弁又は説明のため出席を求められたときは、出席しなければならない。
(改正草案)
第六十三条
内閣総理大臣及びその他の国務大臣は、議案について発言するため議院に出席することができる。
2 内閣総理大臣及びその他の国務大臣は、答弁又は説明のため議院から出席を求められたときは、出席しなければならない。ただし、職務の遂行上特に必要がある場合は、この限りでない。
現行憲法は、答弁、説明を求められたときは総理大臣や他の大臣は「出席しなければならない。」と定めている。これに対して改正草案は「職務の遂行上特に必要がある場合は、この限りでない。」と追加している。つまり「出席しないこともある」ということ。「職務の遂行上」というのは便利なことばである。ほんとうに重大事が起きたときは、国会に出席していられない。たとえば、東日本大震災などの場合、国会に出席して答弁するよりも先に、事態に対応することの方が急務だろう。こういうときは、国会の方も理解して、議事などしないだろう。
しかし。
現実を見てみると、少し違う。熊本地震が起きたとき自民党が主導して国会を開き、「TPP」について審議しようとした。野党から批判を浴び、一日で審議は見送りになった。しなければならない「職務の遂行」をないがしろにした。地震で混乱している期間に、審議を強行し、批准まで持ち込もうとしたのだろう。国民よりも、「政策」を優先させたのである。
そういう「運用」をみると「職務の遂行上」というのは、かなり恣意的に範囲を変更できる。ときには、「答弁してしまうと、職務が遂行できなくなるから、答弁しない。職務の遂行上、出席しない」ということも起きうる。
戦争法にしろ、TPPにしろ、安倍は「丁寧に説明する」と口先では言うが、一度も説明などしていない。「秘密保護法」もある。その問題は秘密保護法の対象なので、職務の遂行上、答弁できない(出席しない)ということが、どんどん起きてしまうだろう。
憲法は国(権力)の暴走をとめるためのものなのに、安倍は、権力を思うがままに動かす(独裁を進める)ために、憲法を改正しようとしている。
「内閣」で気になるのは、もう二点。
(現行憲法)
第六十五条
行政権は、内閣に属する。
(改正草案)
第六十五条
行政権は、この憲法に特別の定めのある場合を除き、内閣に属する。
こちらを先に書くべきだったかもしれないが……。
改正草案で「この憲法に特別の定めのある場合を除き、」とは何だろう。そして、この挿入は、「この憲法に特別の定めのある場合」は「内閣」以外のどこかに「行政権」が属することになるが、それは、どこ?
国会? 裁判所(司法機関)? あるいは、警察?
まさか。
「内閣」というのは「ひとり」ではない。第六十六条にあるように「内閣総理大臣及びその他の国務大臣」によって組織される(現行憲法)。(改正草案は「組織」ではなく「構成」という表現をつかっている。)「内閣」とは「組織」(機関)である。そこには「複数」の人間がいる。その「複数」を「憲法に特別の定めのある場合」は「ひとり」にするということだろう。
そして、その「憲法に特別の定めのある場合」というのが、これまでなかった「第九章 緊急事態」である。
(改正草案)
第九章緊急事態
第九十八条
内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる。
これについては、後で書きたいが、これを参考にすると、「第六十五条 行政権は、この憲法に特別の定めのある場合を除き、内閣に属する。」は、「特別の場合」、行政権は「内閣」ではなく「内閣総理大臣に属する」と読むべきなのだろう。
行政権が「ひとり」に集中する。「独裁」である。
「この憲法に特別の定めのある場合を除き」がなければ、「独裁」はできない。「内閣」という「集団」に「行政権」がある。「独裁」を正当化するために、そのことばが挿入されている。
もう一点は、第六十六条の第二項。
(現行憲法)
2 内閣総理大臣のその他の国務大臣は、文民でなければならない。
(改正草案)
2 内閣総理大臣及び全ての国務大臣は、現役の軍人であってはならない。
「文民でなければならない。」が「現役の軍人であってはならない。」と改正されている。「軍人経験者」であってもいい、ということ。軍人も大臣に起用できるということである。内閣に入る直前に「退役」すれば「軍人ではなくなる」から、入閣できる。「現役を退いて○年」というような「規定」がないから、そういうことが可能である。これでは単なる「肩書」の変更である。だれだって「軍人ではなくなる」。
最近のニュースを見ていると、退役した自衛隊の幹部が、どうやって入手したのかわからない(自衛隊から情報提供を受けているとしか考えられない)情報で国際問題に言及している。「政治が空白になる参院選の期間を利用して、中国が日本領空へ接近している。そのために自衛隊機の緊急発進が増えている」云々というコメントが自衛隊の元幹部の立場で新聞に書かれていた。
彼は「現役の軍人」ではない。しかし、「現役の軍人」と同様に自衛隊から情報を得ている。そして、その「思考」は、自衛隊にフィードバックされるだろう。そういうことが起きても「現役の軍人ではない」という「論理」になってしまうだろう。
「第六章 司法」「第七章 財政」「第八章 地方自治」は自分自身の問題として考えてきたことがないので、何も書けない。
一点気になったのが現行憲法にはない「第九十二条」
地方自治は、住民の参画を基本とし、住民に身近な行政を自主的、自立的かつ総合的に実施することを旨として行う。
2 住民は、その属する地方自治体の役務の提供を等しく受ける権利を有し、その負担を公平に分担する義務を負う。
自治体の「提供を等しく受ける権利を有し」はいいのだけれど、「その負担を公平に分担する義務を負う。」というのは何? どういうこと? 金額的負担のこと? 税金があがるということ? それとも「身体的」に何かをしなければならないということ?
「義務」というのは、現行憲法では「教育の義務」「勤労の義務」「納税の義務」と三つだったが、「納税」はすでに明記されているから、ここ書かれている「義務」は、もっと違ったものかもしれない。
でも、どういうものか、わからない。
わからない、明記されていないということは、それが恣意的に運用されるということでもあるだろう。