ブライアン・ヘルゲランド監督「レジェンド 狂気の美学」(★★★) | 詩はどこにあるか

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ブライアン・ヘルゲランド監督「レジェンド 狂気の美学」(★★★)

監督 ブライアン・ヘルゲランド 出演 トム・ハーディ、エミリー・ブラウニング

 トム・ハーディの唇は女っぽくないか。上唇がめくれていて、下唇とおなじくらいの厚みがある。どうでもいいことなのかもしれないが、これが不気味。
 双子のギャングをひとりで演じているのだが、そのうちの弟(かな?)は眼鏡をかけていて、太っていて、男色家。その弟の方が、上唇のめくれかげんが大きくて、それが特に気持ちが悪い。兄の方は、いくぶん上唇を引き気味にしているのか、めくれてはいるんだけれど異様な厚みではない。で、その唇のめくれかげんというのは……。
 ことばの国(イギリス個人主義)のせいか、何と言えばいいのか、「ことば」を言う前から「内面」の声を剥き出しにしている感じがする。
 目は口ほどに物を言うというのは世界共通の感覚かもしれないが、この弟は眼鏡をかけていて、目を半分隠しているというか、間接的な「場」に遠ざけている。そのかわり、ひとが言わないようなことを「唇」で言ってしまう。「内面」の声を「唇」でさらけだしている。
 兄が、どちらかというと「内面」の声を押し隠し、「冷静」なのに対し、弟は「内面」の声をあからさまに出して「乱暴/強暴」なのだが、この正確が「唇」に出ていると、私は思う。声の出し方と言えばいいのか、発音の仕方と言えばいいのかわからないが、それも「唇」のめくれかげんを反映して、弟の方はイギリス英語なのにエッジが甘い。不明瞭。でも、その不明瞭なのに、「欲望」だけは、どろりと出ている。それが相手に伝わる。(観客に伝わる。)これが、不気味で、こわい。兄の方は、明瞭。その分、嘘っぽいものがある。「ことば」で「許した」というようなことを言いながら、殴りつける。弟はそんなことはしない。怒っているとつたえて殴る。あるいは殺す。
 唇とことばと人格。この関係がというか、こんな関係を具体的に映画にするのが、やっぱりシェークスピアの国、ことばの国、ことばと個人主義が硬く結びついているイギリスならではだなあと思う。
 映画なので。
 つまり芝居とは違って、顔をアップで見ることができるので、どうしても顔に反応して見てしまうのだが、ヒロインのエミリー・ブラウニング。この女優、キャメロン・ディアスを歪めたような顔していない? 美人なの? キャメロン・ディアスを思い出させるところをみれば、「美人」なのかもしれないけれど、「歪めている」という感じがするから「ブス(歪んでいる)」なんだろうなあ。兄の方のトム・ハーディを映画に出てくる人物が口をそろえて「ハンサム」というのだけれど、彼がギャングたちといっしょにいるときよりも、エミリー・ブラウニングといっしょのときの方が私には「ハンサム」に感じられる。
 と、いろいろ余分なことばかり書いてしまったが。
 映画は、何と言えばいいのか、シックだなあ。アメリカのギャング映画は「ゴッドファザー」を筆頭に豪華だが、(それに対抗してあえて抑制をきかせた映画もあるが)、この映画はイギリスそのもののシックさが全編を覆っている。トム・ハーディの顔もエミリー・ブラウニングの顔も、私は嫌いだが、ロンドンのシックな街並みは美しくていいなあ。貧乏なのに汚れていない、というか、「つかいこんだ」暮らしの落ち着きがある。
 貧乏な男たち(少年たち)のスポーツはボクシング。道具がなくても、できるからね。そうやってボクシングをして鍛えた「肉体」がギャングたちの「肉体」に共通するように、貧しい街並みには何か「暮らし」が鍛えた美しさが貫かれていて、それがギャングをしっかりと支えている感じがする。ときどきあらわれる「肉体」のアクションは、実に引き締まっていて、美しい映画を見るよう。かっこいい、超人的というのではなく、あくまで「現実の肉体」の完成されたアクションを見ている感じ。(ジェーソン・ボーンや最近のジェームズ・ボンドのアクションとは違うということ。)映画そのものも、この昔のつくり方を反映している。
 ということから、この映画を見直せば、たぶん★5個の映画。
 でも、私は、トム・ハーディ、エミリー・ブラウニングの「顔」にひきずられてこの映画を見てしまったので★3個どまり。
           (ユナイテッドシネマ・キャナルシティ4、2016年06月23日)







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