株投資、投資の裏操作にからむストーリー。これをテレビという舞台で展開したところが目新しい。テレビを通すことで、「経済のブラックボックス」みたいなものが、家庭に(庶民に)開かれた。あ、開かれたといっても、そうなんだ、不正がおこなわれているのだということがわかるくらいで、実際にどうすれば、どうもうかるのか、というようなことは、私にはわからないのだが。やっぱり、経営者が自分の懐を膨らませるというのが現代の資本主義。庶民はどんなに貧乏になろうが知ったことじゃない、という安倍・麻生のような人間が蠢いているということなんだね。
おもしろいのは、このテレビという媒体が、その情報操作に加担することもあれば、「真実」を暴くこともある。そして、それは常に視聴者と直結している、ということ。アメリカのテレビは、まだ、健在。日本の場合は、情報操作に加担するだけで、真実を明るみに出すということは、テレビメディアはしない。NHKの籾井は「公式発表されたもの以外は伝えない」とはっきり宣言している。と、書いていると映画から離れてしまうが……。
と、書いてきてわかること。
この映画のおもしろい点は、テレビを「昔のテレビ」に引き戻している点だ。「原点」で描いている点だ。生放送。しかせ、ここ(家庭の茶の間)ではないどこか遠くで起きていることを、リアルタイムに、家庭で起きているできごとのようにしてつたえる。ひとの知らないことを、表面を描きながら、内部にまで切り開いていく。えっ、現実って、こういうことだったのかと、テレビを見ていてだんだんわかっていく。
おもしろいねえ。
この「無樫のテレビ」に「いまのテレビ(情報社会)」が加わる。
さまざまな映像資料は、いま起きていることの補足。内部にはどんな問題があるのか、隠れている事実とは何なのか、「過去」を暴くことで、「いま」をより鮮明にする。登場人物の「言い訳」を映像情報で否定する。「嘘」を暴く。「この映像は、あなたのことばの情報とは違う。あなたは嘘をついている」と迫る。ジャーナリズムの真骨頂。それを、そのままやっている。
で。
そういうことを、やると。そこに出ている「当事者」も変わっていく。「事実」が「わかる」と登場人物もそれにあわせて変わっていく。「内面」に深みが出てくる。何をやるべきかが、だんだんわかってきて、「事実」にもとづいて「真実」の姿を見せはじめる。「真実」をつたえることこそ、自分の仕事なのだと気づきはじめる。
この変化の過程を、主役のジョージ・クルーニー、ジュリア・ロバーツ、ジャック・オコンネルの三人が三人三様の形で演じて見せる。ジョージ・クルーニーは、ひょうきんものから、「事実」をつたえるという仕事に目覚めていく。自分は何も考えずに「情報」をつたえていたということを反省しはじめる。ジュリア・ロバーツは「裏方」なのだが、「裏方」に徹することで「事実」を補強する。的確に指示を出し、ジョージ・クルーニーの変化を縁の下から支える。ジャック・オコンネルは、思わぬ変化(ストーリー展開)に驚きながら、徐々に、自分の怒りのほんとうの「対象」を見つけ出していく。テレビ番組(ジョージ・クルーニー)が庶民の敵なのではなく、資本家が敵なのだとわかっていく。資本家が自分の利益だけを考えて株を操作している。そのことをはっきりさせないといけないと気がつく。でも、庶民なので、「悪の構造を告発する」というよりも、「感情」を納得させようとする。株の暴落を引き起こした経営者(株操作で巨額の金を手に入れた)に、「悪かった」と言わせるしかないのだけれど。
「放送」によって、テレビ局という内部と庶民という外部をつなぎ、さらにテレビ局からビルの外へ出ることで、「外部」そのものをドラマ化(?)し、さらに建物の内部にこもり、「肉眼」ではみえないものを「テレビ画像」をとおして庶民につたえる--この三段論法のような仕組みがなかなか効果的である。
効果的すぎて、じっくりと考えるという具合にはいかない。それが欠点でもある。ひきこまれながらも、どこかでこれは映画(あるいは、これはテレビ)と思って安心してしまう。「やっぱり、経営者が悪いんだろう。わかっていたさ」と、「現実」ではなく「ドラマ」を見たような感じで終わってしまうのが、かなり残念。「テレビって、何んでも金儲けにするね」というところに、最後は落ち着いてしまうかもしれない。
むずかしいね、「傑作」をつくるというのは。
(天神東宝・ソラリアシネマ7、2016年06月19日)
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