石だった日、
水は音をたてずに割れた。
石だった日、
胡桃が落ちた。音をたてた。
石だった日、
真上に太陽があった。
石だった日、
ひとがやってきた。
石だった日、
太い縄が巻かれた。
石だった日、
丸太があてがわれた。
石だった日、
上へひきあげられ、
石だった日、
横へひっぱられた。
石だった日、
水の音がしみこんだ。
石だった日、
縄と丸太から自由になった。
石だった日、
知らない石がぶつかってきた。
石だった日、
知らない石がのっかってきた。
石でなくなった日、
犬が吠えた。
石でなくなった日、
鳥の影が冷たかった。
石でなくなった日、
痛くはなかった。
石でなくなった日、
風が吹いた。
通りすぎてから
ごつごつを思い出している。
石だった日を
かわりに思い出すように。
石だった日、
子どもがやってきた。
やわらかな手を残していった。
石ではなくなった日、
残っている手を見つけたこども。
目をまるくした。
沢をのぼっていくと、
足がすべるところがある。
手が
大きなものにたよって
石だった日がよみがえる。
あの日。
石だった日、
胡桃が落ちてきた。
石だった日、
水といっしょに音楽になった。
石だった日、
真上に太陽があった。
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