鏡/異文 | 詩はどこにあるか

詩はどこにあるか

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鏡/異文

この鏡は見たことがある。
花瓶のなかの花を裏側から映していた。ドアが開くと、奥の部屋にある鏡に、目配せのように、いま映している色を投げつけることもあった。

これは「対称」について書こうとした詩の冒頭。
精神を動かすために、いくつかの疑問が余白に残されている。

一、反対側の鏡が花の正面の形を投げ返してきた場合、それはどこで交わるのか。
二、その場合、時間の「対称」はどう影響するのか/鏡のなかで遅れはじめる時計。
三、自分がどこにいるかわからない、と漏らす老人。

いま、ことばは肉体の位置にもどることを欲する。つまり、
見おぼえるある鏡は、体を動かしたときに見えるだろうということを思い出す。
下にしていた脇腹を上にし、上にしていた脇腹を、なまあたたかいくぼみにあわせる。
立体の鏡のように。

「ひらいた傷口」という抒情詩が、その瞬間に完成する。
書かれないことによって。



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