「川」があった。捨てた物語のなかで、男が窓を開けたときだった。夜が入ってきた。雨上がりの新しいにおいと、沈黙をこえてやってくる音が。男はこころのなかで「川」を見ていた。満潮でこえふとってくる河口の、塩であまくなり、つやめいてくる水。
「川」があった。捨てた物語が、チーズを切る女のこころのなかに入ってきた。ニンニクを塗ったパンと赤ワイン。きまりきった日常の断片の中に、そのまま紛れ込むみたいに、男が「遠くから川のにおいがする」と言った。
知らない川の上を、やすらぎという時間が流れている。
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