破棄された詩のための注釈(25)
「三つ」ということばがあった。「こころには三つの仕事がある。愛する。憎む。悲しむ。」それを消した瞬間、漠然とした不安に詩人は襲われた。いま消しても、これから先も必ずあらわれてきて、それを消しつづけなければならない。
「一つ」ということばがあった。不意に襲ってきた不安を無効にするためには、「こころには三つの仕事がある。愛する。憎む。悲しむ。」ということばを、いま書いてしまえばいいのだ。「一つ」はすでに起きてしまっている。
「二つ」ということばがあった。「こころには三つの仕事がある。愛する。憎む。悲しむ。」は「二つ」のこころに同時に生まれた。そう知ることは、概念にとって、けっして消すことのできない愉悦である。