破棄された詩「坂について」のための注釈(24)  | 詩はどこにあるか

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破棄された詩「坂について」のための注釈(24) 

坂の堅牢について、
中村さんの庭の楠は、空き地に建った家からの「越境」という苦情によって、断面図のように半分が切られてしまった。坂はそれを見ていたが、坂の表情である傾きは少しも変わらなかった。堅牢なものである、と思う。

坂の緩慢さについて、
のぼるとき、おりるとき、土踏まずはゆっくりとアスファルトに近づくのだが、そのとき私は坂が私の土踏まずを押し広げながら、坂であることを主張すしているように感じる。その力は緩慢であるが、緩慢であるがゆえに、あなどれない。

坂の愉悦について、
呼吸の疲れを吐き出しながらのぼっていく男がいる。他人に、そんなふうに働きかけることができるのは坂の愉悦である。あるいは、のぼりつめる寸前に見える向こう側の街を見て、男が勃起すると知ることほど坂にとってうれしいことはない。

坂の絶望について、
「何ひとつ失うことができない」ということばがあった。「自分であることをやめることができない、遠くへ行くことができない」ということばが読みかけの本で散らばり、うねっていたが、これでは「意味」になってしまうので、(以下判読不能)。


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