「明滅」ということばで、人が感じるのは明るさの方だろうか、暗さの方だろうか。坂を上ったところにある街灯は、何度取り換えられてもすぐに明滅する。そばの桜が咲いた日は、街灯が繰り返し光の花びらを開き、また散らしているようにも感じられた。
「明滅」ということばは、桜に驚き吸う息を止めたときの女の輪郭の揺れに似ていた。しずかに膨らむ胸のまるみの内側に少しくらい翳りが、吐く前の息の形であらわれる。そのことを書きたくて、詩人は「明滅」ということばをつかっている。
「明滅」ということばは、ある批評家に「桜のはなやぎと女の暗さの対比である」と遠回しに批判された。街灯のつくる花びらの影に支えられ桜はなやぎ、光が暗くなる一瞬、女のからだから悲しみがほのかな光のようににじむ。あまりにも安直な感情ではないか。
「明滅」ということばは、なぜ「明」が先で「滅」があとか。あらわれることばによって意識はつくり出されるものである。ことばが、ことばの順序によって、感情を生み出していく、と反論は書いたが、それも詩といっしょに破棄された四月の雨の日。
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