原作は舞台劇。映画も室内のシーンがほとんど。こういう映画は、つらい。どうしてもことばが「主人公」になってしまう。主題が「説得」なので、なおさらである。主役のふたりは、とても明瞭なせりふまわしをするので、フランス語を知らない私にも聞き取れるところがあって、あ、うまいもんだなあと感心してしまうのだが、やっぱり「字幕」で「見る」には無理がある。
ことばの「意味」をわきに置いておいて……。
映画のほかの要素を見ていくと、ことばに関しては、音と間合い。音に関して言えば、先に書いたようにすばらしく明瞭。その明瞭さのなかに、どうやって「表情」を入れるか。これをどう受け止めるか。これが難しい。
変な言い方になるが、明瞭ではないときの方が、逆にわかりやすいときがある。音の砕け方のなかに「日常」があらわれるからである。この映画で描かれているのは、非日常なので、この映画のことばの言い回しの「表情」をくみ取るのはほとんど不可能。
そのかわりに、映画なので、「顔」から「表情」を読み取ることになる。微妙な顔の変化のなかに、そのときのことばの「声」を見ることになる。これが、しかし、また「外交」問題というか、説得術なので、うーん、つらいね。そんな会話を私は日常的に体験するわけじゃないから、顔つきがかわった瞬間の、その緊張感が、いまひとつつかみきれない。おもしろい、ということは「頭」ではわかっても、「肉体(目/耳)」がのめりこめない。室内の弱い光がさらに役者の表情を微妙にしている。陰影の変化が、まるで「絵画」なのである。
で、「本筋」がわからないせいもあって、奇妙なことろにこころが動いてしまう。たとえば、会話の舞台になっている部屋の秘密(隠し階段/マジックミラー)とフランスの歴史、フランス人の恋愛を語った部分が、「説得劇」とは別の「パリの魅力(フランスの魅力)」に引き込まれる。私のかってな思い込みかもしれないが、そういう部分では二人の役者の声も表情も、一瞬、戦争を忘れている。説得劇の緊張がゆるんでいる。生身の肉体が動いている感じがする。先に書いたことを繰り返せば、ことばの音と間合いの調子が、説得、反論のときとは微妙に違っている。日常的になる。ことばの感じが日常的になり、それがパリの日常に繋がっていく。戦争をしているのに、一瞬、戦争が消える。その瞬間、変な言い方だが、フランスの(パリの)底力というものを感じさせる。「日常(恋愛)」にはさまざまな工夫があって、その工夫がパリという都市を美しいものにしている。欲望の連鎖のようなものが、パリを緊密に結びつけ、そこに不思議な美しさをつくり出している、ということを感じさせる。
そして、これが「説得」のときの、「土台」にもなっている。ドイツ軍将校は「フランス人(パリ市民)なんか、みんな弱虫で、すぐに逃げ出す。ドイツ軍の敵ではない」と言うが、スウェーデン領事は「それはフランス人を知らない見方だ」というようなことを言う。どんなにフランス人がパリを愛しているか。愛しているものを破壊されたとき、ひとはどんなふうに反撃に出るか、そのときの力はどんなものか。それはそのままパリの美しさのなかに隠れている。隠れているものを見くびってはならない。
隠し階段が象徴的なのだが、その「隠れているもの/隠しているもの」のなかに、人間の「力」の強さがある。そのことが、この映画の、別のテーマでもある。ドイツ軍将校の苦悩も、彼にはヒトラーに人質としてとられている家族がいるという「隠された苦悩」である。愛している家族をどう守るか。家族のために何をすべきか。その問題があって、将校は苦悩する。さらにヒトラーのいまの状態も、知っていて「隠している」。人に言えずにいる。--で、そういう「隠し事」ゆえに、将校も不思議な「美しさ」のなかに揺れている。人間の「美しさ」を浮かび上がらせている。
これが、ことばだけではなく、映像(顔の演技、身体のこまかな演技)として具体化されている。「内部」の美しさが「外部」の美しさを支えている。そのあり方を、映画は役者の肉体に近づいた映像で表現している。
この内部の美しさこそが外部の美しさを生み出すのだというのは、映画を室内に限定しているところにもあらわれている。室内の美しさ、ドアや机や椅子、さらには食器、食事、酒(食べ方、飲み方)……というものをていねいにとらえている。この室内の美しさ(内部の美しさ)を具体化しているという点では、これはたしかに芝居を超えている、と思う。
これがねえ……。フランス語がわかれば、もっともっとおもしろいんだろうけれど、私の「限界」。パリの街並みをほんの少ししか映さないまま、パリの美しさを伝えた傑作映画と呼ぶには、私のフランス語では、どうにもしようがない。
私がフランス人で、フランス語がわかるなら、★5個の映画かもしれないなあ、と思いながら見た。
(KBCシネマ2、2015年03月29日)
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