「花」ということばは「すみれ」と書き直され、さらに「花」にもどされた。束ねた花の茎、つぶれた葉の幾枚かに「掌のぬくみが残っている」と書きたかったからだ。「掌のぬくみ」の「ぬくみ」という罪をこそ書きたかった。
「小石や自転車の痕に、それを見つめた視線が残っている」と書きはじめた詩を、ことばで破壊したかった。眼が運んでくる形と色の変化をたたき壊す手がかりが「ぬくみ」という「肉体」にあるように思えた。
「たわんだロープと杭」にとって、触られること屈辱なのか。孤独をえぐられることなのか。感情を隠しているのか、妬みをむき出しにしているか。いまなら、「なつかしさこそが残忍なのだ」と書くが、そのときはことばは抽象になりたがらなかった。
「しおれた青」ということばがあった。「通俗的、あまりにも通俗的で通俗的だ」という剽窃されたことばは、どう書き換えても最終連にはなれない。「花」は「すみれ」に、「すみれ」は「花」にもどされ、束ねた花の茎に「女の」掌のぬくみが残っている。
*
![]() | 谷川俊太郎の『こころ』を読む |
クリエーター情報なし | |
思潮社 |
「谷川俊太郎の『こころ』を読む」はアマゾンでは入手しにくい状態が続いています。
購読ご希望の方は、谷内修三(panchan@mars.dti.ne.jp)へお申し込みください。1800円(税抜、送料無料)で販売します。
ご要望があれば、署名(宛名含む)もします。
![]() | リッツォス詩選集――附:谷内修三「中井久夫の訳詩を読む」 |
ヤニス・リッツォス | |
作品社 |
「リッツオス詩選集」も4400円(税抜、送料無料)で販売します。
2冊セットの場合は6000円(税抜、送料無料)になります。