破棄された詩のための注釈(17) | 詩はどこにあるか

詩はどこにあるか

詩の感想・批評や映画の感想、美術の感想、政治問題などを思いつくままに書いています。

破棄された詩のための注釈(17) 

「花」ということばは「すみれ」と書き直され、さらに「花」にもどされた。束ねた花の茎、つぶれた葉の幾枚かに「掌のぬくみが残っている」と書きたかったからだ。「掌のぬくみ」の「ぬくみ」という罪をこそ書きたかった。

「小石や自転車の痕に、それを見つめた視線が残っている」と書きはじめた詩を、ことばで破壊したかった。眼が運んでくる形と色の変化をたたき壊す手がかりが「ぬくみ」という「肉体」にあるように思えた。

「たわんだロープと杭」にとって、触られること屈辱なのか。孤独をえぐられることなのか。感情を隠しているのか、妬みをむき出しにしているか。いまなら、「なつかしさこそが残忍なのだ」と書くが、そのときはことばは抽象になりたがらなかった。

「しおれた青」ということばがあった。「通俗的、あまりにも通俗的で通俗的だ」という剽窃されたことばは、どう書き換えても最終連にはなれない。「花」は「すみれ」に、「すみれ」は「花」にもどされ、束ねた花の茎に「女の」掌のぬくみが残っている。



*

谷川俊太郎の『こころ』を読む
クリエーター情報なし
思潮社

「谷川俊太郎の『こころ』を読む」はアマゾンでは入手しにくい状態が続いています。
購読ご希望の方は、谷内修三(panchan@mars.dti.ne.jp)へお申し込みください。1800円(税抜、送料無料)で販売します。
ご要望があれば、署名(宛名含む)もします。
リッツォス詩選集――附:谷内修三「中井久夫の訳詩を読む」
ヤニス・リッツォス
作品社

「リッツオス詩選集」も4400円(税抜、送料無料)で販売します。
2冊セットの場合は6000円(税抜、送料無料)になります。