破棄された詩のための注釈(14)  | 詩はどこにあるか

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破棄された詩のための注釈(14) 

長い口論がおわりかけたころ「ひとり」が「あらわれた」。読んだことを忘れてしまった本に引かれていた「傍線」という静かな比喩をひきつれていた。

「くちびるの上に微妙な笑みが浮かぶのを感じた」。何の本に書かれていたことばか、詩人は注釈をつけていないが、創作かもしれない。口論の相手のくちびるではなく、自分自身のくちびるの上に、と読むと「ひとり」が「あらわれた」ということがわかりやすくなる。他人の感情以上に、自分自身の感情は止めることができない。それを認めたくないので「ひとり」と他人のように書く。

もうひとりは、つまり相手は「突然の沈黙」をくちびるの縁にみつけ、表情の「行間」を読もうとした。しかし、そういうこころと肉体の関係をあらわすには、この三連目はあまりにも未熟である。「突然の沈黙」は陳腐すぎる。ここに、この詩の失敗がある。

四連目、「自分自身の内部にある鏡に憎しみを映して確かめている」と書いて、数日後「憎しみ」を「悲しみ」に変えている。「くちびるの上の微妙な笑み」は、詩人が口論の相手に見つづけたもの。無意識にそれを真似て反逆しようとした。他人の悲しみに見向きもしない、「その人」に。

「ひとり」か「その人」か。人称の差異のなかでおわる一日。






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