破棄された詩のための注釈(12) | 詩はどこにあるか

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破棄された詩のための注釈(12)

「愁い」ということばは、どういうときにつかうだろう。詩人は「嫉妬」と同じ意味に用い、それがいままでにない魅惑を引き出したと書いているが、これは書き急いだために剽窃の仕方を間違えたのである。「嫉妬」を「愁い」と言い換えた方が、「嘘」を含み、女の輪郭を豊かにするはずである。

遠くで川の水がざわめくのが聞こえた。「街が沈黙にちかづいていく音に似ている」。起承転結の「転」の部分で、詩人はそう書きたかった。そして、そのことから一連目に引き返したために「嫉妬」ではことばが強すぎると感じ、「愁い」にしたのだった。しかし、私の率直な感想では、やはり、どうもちぐはぐである。

ほんとうは書きたくなかったのかもしれない。

「反対側」から、あさはかな唇がちかづいてきた。セーターのなかに手を入れると「裏切り」と「哀願」がやわらかく動いた。へそや性器ということばが部屋を横切る猫のように立ち止まったが、書かなかった。(一度は書いたが、傍線で消した。)それから「川の土手の木の横に立ってみている。」という行を最終行にするために、楷書で書いた。
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