そんなはずはない、 | 詩はどこにあるか

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そんなはずはない、

「そんなはずはない」ということばの鼻の先に「窓辺」ということばがあり、「椅子」という名詞と「引く」という動詞を組み合わせると常套句になってしまうと考え、ことばは文章になりあぐねている。
その頭のなかで、「この部屋にすんだことがある人ならだれもが知っている」ということばが、夕日のようにドアをノックする。「夕日」ではなく「夕刊」にした方が、風景ではなく、情景になるというのは、ことばが思ったことか、それともあの本に書いてあったことか。
「あの本に書いてあった」ということばは、それから「窓辺」から出て行き、「裸の木の影は地面に倒れながら少しずつ伸びて、壁のところまで行き着くと、木と平行になる形で壁をのぼりはじめた」という長い文章になった。単語のままでいると息が細くなってしまうので。
「そんなはずはない」ということばは傍線で消されて、かわりに「しかし二階の窓には届かない」ということばが、おんなの日記から借りてこられた。「そんなはずはない」と、向かいの窓から見ていたことばは現実を記憶にあわせて書き直そうとする。「窓と窓は話し合っていた」。あるいは「開かれた窓の、それぞれの部屋の奥には鏡があって、たがいを映しあっていた。」
そうしているうちに、ことばには、「鏡に映っている」のが向うの部屋の鏡なのか、自分の姿が向うの鏡に映って、それが「跳ね返ってきている」のか、わからず、混乱してくるのだが、「鏡に映っている」や「跳ね返ってきている」は、抒情的すぎないか、それが恥ずかしいという気持ちだけははっきりしてくる。


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