別のところで、ことばは、女をこんなふう書いていた。
「傘立てのところで傘を入れようかどうしようか迷っている。
いったん何本か傘を引き抜いて閉じ直さないと入りきれないだろう。
手間をかけることは嫌いではないのだが、
他人の傘をたたんでいるところを見られると思うと躊躇するのだ。」
その女がいまコーヒー店を出るところである。
本を一冊読んでいる間に雨があがった。
舗道に西日が射してきていて入り口のガラスが明るい。
傘立てのところで、傘を手に取ろうとして、時間がねじれる。
女は店に入るとき壷に無造作に傘を放り込んだ。
それがていねいにまきたたまれて美しい角度で立っている。
ことばは、いま、そんなふうに女を描写しながら、
これを詩にするならこれ以上書いてはいけないと思っている。
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