殺し屋 | 詩はどこにあるか

詩はどこにあるか

詩の感想・批評や映画の感想、美術の感想、政治問題などを思いつくままに書いています。

殺し屋

誰が私を殺しに来るのか。
わからないときはドアについて考える。
たとえば内側に向かって開くドア。
金属のドアの錆びた蝶番ということばのなかに住んでいる蝶が
銀色の粉をまきちらして飛び立つ。

誰が私を殺しに来るのか。
わからないときはソファに体を沈め、
殺し屋のやってくる暗いドアを見つめる。
外は雨で、雨に叩かれるドアの音が強くなり、
ノブを回す速度で雨の匂いがなだれてくる。

想像の銃に撃たれて私は死ぬ。
ドアのことなどもう考えることはできないと考えながら。
その私のために殺し屋は
「思考が排除されたとき残るものが時間である」と言わなければならない。
それを聞きたくて私は殺し屋を雇ったのだが、

何の手違いだろう。誰の、何のための手違いなのだろう。
「おまえの孤独に友人はいるのか。」
言ったことも聞いたこともないことばがドアを開けずに入ってくる。
誰か私を殺しに来たのか、
わからないまま死んでしまって私はくだらない夢をみている。




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