本当にあるのか、それとも架空のものなのかわからないが、その画家の描く静物画のどこかに必ず大理石の少女像があった。ワインの瓶よりすこし背が高いくらいの小さなものだが、首をひねりながら微笑んだ口元が挑発的で、そのくせ接近してくるものを侮蔑している。
私がその早熟な少女像を忘れられないのは、しかし、彼女のあまりにも人間的な姿、形のためではない。セザンヌを思わせる堅牢な色彩の静物のなかにあって、大理石の白は激しく消耗している。だれも描かなかった白だ。画家の「視力を使い果たしてしまった、疲れてしまった」というつぶやきが聞こえてくるような感じがする。本物か、架空の像かわからないという印象は、そこから来ている。
人物画(肖像画)を一枚も残していない画家の秘密を見てしまった--そういう錯覚に襲われるのである。
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