凸版活字の本 | 詩はどこにあるか

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凸版活字の本

目が悪くなってから好んで読むのは凸版活字で印刷された本である。
文字が小さいが、紙に活字が食い込んでできた凹凸がときどき指にふれてきて、
はじめて女の肌を知ったときのようにどきどきする。
ふとした拍子に動脈のなかを動く鼓動を感じるような錯覚に襲われる。

女と出会ったころに読んだ本だと記憶しているが、ほかには何もおぼえていない。
ところどころに引かれている傍線は誰のものともわからないが、
余白に書き込んだ文字は男のものである。しかし、もう意味はわからなくなっている。
意味とは脈絡のことではなく、そのとき起きたことだ--と作者は書いている。

街を、区画の大きいビルの通りではなく、小さな軒の並んだ路地を歩き回ったみたいに
絵はがき、経験論、ドールハウスの歯磨き、合成比喩ということばが、
外付けの蛇口や植え込みのように二段組の活字の余白に散らばっている。

逃避的変化と象徴という文字が何かのカギのように奇妙な形をつくっている。
ほんとうに思い出せないことだけが真実である、と主張したのは作者だが、
過去の街のウインドーに映った半透明の自分の影のようだと本のなかの男は感じている


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